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「ああ、こいつか。随分と綺麗な顔をした孤児だな。おい！お前の名前は？」
私の目の前にいる神経質そうな男が、その細い目で私を上から下までジロジロと観察している。
「は、はい。リドです。13歳です。よろしくお願いします。」
不快な視線を受けながらも、私は笑顔で媚を売った。
今の私は、孤児院育ちの少年だ。生まれ持った高い魔力を買われて、働き先を紹介してもらったという設定。
「まあ、魔力が高い子供なら何でもいい。イディス、前金だ。」
「あ、はい、ありがとうございます、グレゴール男爵様。しかし、雇用契約書は？」
「イディス、これは王妃様の頼みなのだぞ。お前は王妃様を信用出来ないのか！？」
「も、申し訳ありません。」
「分かったなら良い。これからも頼むぞ。」
グレゴールと呼ばれた男が、私の背中を乱暴に押す。
私はイディス商会長に視線を送った後、押された先の部屋に入った。
その部屋には、10代前半ほどの少年と少女がいた。彼らは各々、この部屋で寛いでいる。一瞬、その内の1人と目が合ったけれど、直ぐに逸らされてしまった。
私は一先ず、この子達と仲良くなるのを諦め、部屋の中を見渡す。
窓は全てはめ殺しで開かない。ドアも私が入室すると、外側から鍵を掛けられた。
一見綺麗なこの部屋は、私達を逃さないための檻なのだろう。
「ねえ貴方、どこから来たの？その汚らしい服、まさか孤児じゃないでしょうね！？」
黒髪の勝気そうな少女が、両手を腰に当てて凄んでいる。
「僕は、リドと言います。イディス商会長の紹介で孤児院から来ました。」
「うわっ、嫌だわ。せっかく王妃様にお会い出来るのに。私、孤児と一緒に仕事する気はないの。目障りだから、あっちに行って。」
他の子達も黒髪の少女と同様に、私を警戒していた。
私は仕方なく言われた通り、目立たない端の方に寄る。
ふう、何とか潜入は出来た。後は、オーレリー王妃に接触するだけ。
体力を温存するため、私は膝を抱えて目を閉じた。
「どう？私、男の子に見える？」
私がデルとアリアに頼んだ魔法薬は、姿を変える薬だった。
自分の姿を鏡で確認すると、髪が栗色の短髪に、瞳は緑になっていた。体付きも平坦なものに変わっている。
私の面影は残っているけれど、どこからどう見ても男の子。我ながら、中々可愛い。
「メリアお嬢様、本当に大丈夫ですか？やはり俺も一緒に...。」
「駄目よ、ライ。さすがに怪しまれるわ。私は、転移魔法も使えるから大丈夫。」
相変わらず過保護なライが、私の側から離れようとしない。
「ライ、お前は俺とやる事があるだろ。お嬢様、こっちは任せて下さい。それにしても美少年っすね！おっ、おい、大丈夫か、ローズ！？」
「リ、リルメリア様が、可愛すぎます！」
顔を真っ赤にして震えるローズを、ロバートがあたふたしながら支えていた。
だ、大丈夫かな？
「リルメリア様、貴女は貴女の思うままに。私が全力で貴女を支えますので。」
背後にいたゲイツが、私の肩から落ちたサスペンダーを直してくれた。
「ああ、ライノルト、貴方の我儘が女神様の邪魔になるなら排除しますよ。」
私にピッタリくっ付いていたライの肩が、ピクリと動く。
目を合わせた2人が、なぜか静かに睨み合っていた。
