2-10
「私は、1年ほど前に属性転化が起こったのです。」
属性転化とは、稀に生まれ持った属性の偏りが大きく変わることを指す。成長と共にゆっくり変わる人もいれば、何の前触れもなく急に変わる人もいる。
アルベルティーナ様の場合は後者だった。
元々闇属性が強く、魔力量も多かったアルベルティーナ様は、レブロン家が所有する魔鉱山開発に期待されていた。
しかし1年程前、急に闇属性の魔力が弱まり、風属性の魔力が強くなった。
「家族は何も言わずに、今の私の状況を受け入れてくれています。でも、魔鉱山の採掘には闇魔法が欠かせないのです。」
魔鉱石を生み出す地は、豊富な魔力が地脈から湧き出している。
その湧き出た魔力は、全ての属性が高濃度に溶け合い、直接触れると人に害を及ぼす。
その為魔鉱山の採掘者は、その魔力に触れないよう闇魔法の結界を使って鉱山内に入る。
結界魔法は難しい魔法ではないけれど、闇魔法を使える魔法士は少ない。
アルベルティーナ様がどれだけ期待されていたか考えるとやるせない気持ちになった。
「アルグリア学院に入ったのは、何か良い手立てがないかと思ったからなのです。この学院には闇魔法を使える先生は多く在籍されていますし、属性強化を研究されている方もいらっしゃるので。でも中々上手くいかず、昨日も断られてしまいました。」
アルベルティーナ様の目に涙が浮かぶ。私はそっとハンカチを差し出した。
「ありがとうございます。でもきっとまだ何かあるはずです。諦めずに探してみますわ。」
アルベルティーナ様はそっと涙を拭うと、悲しみを振り払うように真っ直ぐこちらを向いた。
「アルベルティーナ様、もし良ければ、週末我が家に来ませんか?一緒に探せば、何か見つかるかもしれませんよ。」
「いいえ。これは私の。そして我が家の問題です。嬉しい申し出ですが、受ける訳にはいきません。」
私の提案にアルベルティーナ様はゆっくりと首を横に振った。
「アルベルティーナ様、これは家同士の取引ではありません。友達が困っているから力を貸すだけです。私達もう友達でしょう?」
「友達?」
「はい。私とアルベルティーナ様は友達です。」
「はい、はい。リルメリア様。」
アルベルティーナ様は両手で顔を覆いながら泣いてしまった。
私は友達の力になってあげられるだろうか。
ウィルが迎えに来るまで、私はアルベルティーナ様の側に寄り添っていた。




