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「お疲れ様でした、聖女リルメリア様。やー、神獣様までお連れになるなんて、さすがリルメリア様!今後が楽しみです。私、一生付いて行きますね!」
大興奮で私達を出迎えたノルンは、直ぐさまソファに座る狐の前に陣取った。狐に興味津々のようで、今まで以上に目が輝いている。
「これから各国への通達は私が行う。聖女の披露については、アイゼンが主導することになるだろう。ノルン、貴方にはアイゼンの補佐を任せる。序でに、その神獣の存在も大々的に広めてやれ。」
「「えーー!」」
猊下の指示を、ノルンと狐が揃えたように首を振って拒否する。
「猊下!アイゼン師匠と同じ仕事は勘弁してください!私、死んじゃいますよー!」
「私だって、恥ずかしいからやだぁー。理花、じゃなかった。リルメリアちゃーん、助けてぇー。」
この2人、種族は全く違うのに、雰囲気がそっくり。実は兄弟?
「リルメリアちゃん、私に弟はいないよぉ!」
真面目な顔で否定していますが、見た目では狐さんが可愛い弟ですよ?
「2人とも、これは決定事項だ。リルメリアも覚悟しておけ。」
「分かりました、猊下。」
うん、こうなったら腹を括ろう。嫌だけど頑張るしかない。
受け入れた私とは反対に、似た者同士の2人はすっかり項垂れてしまった。
「ところでリルメリア、いつまで私を猊下と呼ぶつもりだ?そろそろ私を敬称で呼ぶのは止めろ。そうだな、レーグはどうだ?」
え!?
「レーゲンビリアかぁ。数代前の聖女の伴侶と同じ名前だねぇ。あの子も良い子だったよぉ。レーグかぁ。良い名前!呼んであげなよぉ、リルメリアちゃん。」
うーん、レーグかぁ。ちょっと私には恐れ多い。レーグ様でもいいかな?
「いいぞ。だが、貴女は早めに聖王としての自覚を持つことだな。」
「はい...」
聖女としての、異世界人としての役割は、神との会話の中で納得したし、覚悟も出来た。
でも、私が聖王だなんて...
正直に言って、こちらはあまり自信がない。
「そう言えば!神獣様のお名前は何とおっしゃるんですか?」
あ!
私と狐は、お互い顔を見合わせた。
「シ、シロかな。」
「え!?ちょっとリルメリアちゃん!」
でも、でも、狐さんの名前、私には分からないじゃないですか!
私は心の中で必死に訴える。
「そうか、覚えやすくて良いな。では、シロ。貴方はこれから、常にリルメリアと行動を共にするだろう。リルメリアを頼むぞ。」
レーグ様が狐の前に跪いて、諭すように話すと、狐も仕方なさそうに受け入れていた。
「狐さん、名前が分かったらすぐに訂正しますから、今は我慢してください。一緒に世界のために頑張りましょう!」
私が声を潜めて狐に話し掛けると、小さな頷きが返ってきた。
「で、では、レーグ様。シロ共々よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく頼む、聖女リルメリア、神獣シロ。」
「私もよろしくお願いしまーす!」
2人の温かい歓迎に、これからの不安が少し薄れたような気がした。
心なしかシロの尻尾も揺れていた。




