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4-12

「中々面白かった。さすがは聖女だな。これからも楽しみだ。」


「猊下、まだ私は聖女じゃないですよ。寧ろここまでして聖女じゃなかったらどうするのですか?」


「その時は私が全力で貴女を聖女に仕立てるさ。まあ、そんな事にはならないが。」


それはそれで楽しそうと笑ったノルンに、私は冷めた目を向ける。



「ほら、貴女の小煩い師から預かったぞ。これが最後のポータルだそうだ。やるのだろう?」



もちろん。もうここでは全て終わったのだから。



「猊下、ご迷惑をお掛けします。」


「ああ、気にするな。」


私はお礼に、猊下の胸元へ浄化の花を挿し入れた。





「リルメリア嬢!」


「ゲイツ様?」

走って来たのだろう。ゲイツ様は額に汗を滲ませながら、荒い息を吐き出していた。



「私の女神様、どうか私を貴女のお側に。私を貴女の騎士にしていただきたいのです。」 

スッと膝をついたゲイツ様が、乞うように私の手を握った。



「ゲイツ様!?でも、私は...」


「この国をお捨てになるのでしょう?」


そう。私はこの国に何も残すつもりはない。



「大丈夫です。これは、貴女の側にいたいと願うただの私のわがままですから。」

ゲイツ様は立ち上がると、私の髪先に優しく触れる。そしてギュッと私を抱きしめると耳元に唇を寄せて囁いた。



「少しだけ待っていてください、愛しい私の女神様。」

そう言い残してゲイツは足早に行ってしまった。



「まったく、距離が近過ぎるな。リルメリア、大丈夫か?」



「あ、はい。」

びっくりして心臓が痛い。顔も熱い。

少し冷えていた指先を当てて、頬の熱を冷ましていると背後から足音が聞こえた。




「リル、どうして、どうしてなんだ。待っていてくれるって言っていたのに。」



これが最後になるのかな。

ねえ、リルメリア。


私はゆっくりと振り返って、ウィルに向き合う。猊下が少し私達から離れたのが分かった。



「ウィル、私ね。貴方が隣にいなくて、寂しくて、悲しくて、辛くて、寒くて、痛かったのよ。死んじゃうかと思ったぐらい辛かったわ。」


「ごめん、リル。でも...君とこのまま一緒にはいられないんだ。」

俯いてしまったウィルを、私は、リルメリアは静かに見つめる。



「そうね。私もそう思ったの。だから前に進んだ。このままの私ではいられなかったから。」


私は、リルメリアのままではいられなかったのよ、ウィル。



「今の貴方から見た私は、凄く変わったのでしょうね。もう私はリルメリアではないのかもしれない。」


「何を言って...リル?」


「辛くて、悲しくて、必死に伸ばした手を貴方は見てもくれなかった。だから私は変わるしかなかったの。貴方がいなくても立っていられるように。」


私の瞳から一筋の涙が流れた。

それと一緒に悲しみも流れ落ちる。



「さようなら、ウィル。貴方が私を切り捨てたように、私ももう貴方はいらないの。」



私はルーイ先生が作ってくれたポータルに魔力を流す。



「猊下、後はお願いしますね。」


私が握っているポータルは、転移装置の最後のピース。

リヴァン先生とレイズが、苦労して各地のアルト商会支店に設置してくれたものだ。

これに膨大な魔力を流すことで全ての仕掛けが完成する。



最初の計画から行き先は変わっちゃったけど。

でも、新しい私の道。


だから、さようなら、ウィル。



ウィルの姿を最後に焼き付けて、私の意識は光に包まれた。




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