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「「神の意思よ(だ)。」」
私と猊下の声が重なる。
正直、私はまだ半信半疑だけど。
フフ、それにしても『神の意思』って便利な言葉だわ。
陛下もダリア様もショックのあまり声を失っている。
「ア、アルト嬢、その剣はまさか!?」
「ああ、聖剣を託されましたの。今は、私の物です。」
私は聖剣を引き抜いてみせると、軽く振って鞘へと戻した。
私の細腕で長剣を軽々扱っていたからだろうか、王太子殿下は驚いた表情でそれを見ていた。
この剣は花のように軽く、私の思い通りに動く。物語の勇者にでもなった気分ね。
「聞け!」
猊下が声を張り上げる。その声は風に乗って庭園の隅々まで届いた。
「リルメリア・アルトはティリウス聖王国聖王、そしてこの世界の聖女。それは何人も覆すことは出来ない。リルメリア、何か皆に言うことはあるか?」
猊下は最後に終幕の言葉を私に問いかける。
それに応えるため、私は笑顔を消して、はっきりと告げた。
「この国に残すものは、言葉一つありません。」
「そうか、では行こう。」
私は猊下が差し出した手に右手を乗せる。
「ま、待って!貴女にしたことは本当に申し訳ないと思っているの。でも、わたくしは王妃として最大限助力したつもりよ。だから...」
「そうだ!あの時は、魔物の被害に悩まされていた。国としては仕方がないことだ。しかし、そうだな。アルト嬢に害を成した者は、この際しっかり罰するとしよう!」
陛下の急な意思転換に、貴族達から困惑の声が上がる。
リノアーノ様がディナータ侯爵の隣で震えているのが見えた。
「ちょっと待って下さい!」
ダリア様が、陛下の前に飛び出す。
「リルメリア様が聖女だなんて、嘘です!だって招火の儀を失敗したんですよ!この国を魔物から守ったのは私です!司祭長様は神に導かれてこの国に来たのでしょ?なら、それは聖火という奇跡を起こした私のためのはずです!皆んなもそう思うでしょ?」
「た、確かに、アルト嬢は失敗したし...」
「ダリア様の言うことも頷ける。」
「ダリア様の奇跡は私も見ました!」
思い思いの言葉を口にする貴族達で、辺りの騒つきが大きくなる。
「ダリア!やめなさい!」
「しかし母上、ダリアの言う事にも一理あります。司祭長猊下、私はアルト嬢が聖女だとは思えません。きちんとした証明を。」
王妃様を押し留めた王太子殿下が強い眼差しを猊下に向ける。
猊下は面倒くさそうに息を吐いた。
「王女よ、貴女の力は所詮借り物の力。聖女の力とは全くの別物だ。まあいい、折角だ。リルメリア、神の奇跡とはどういうものか見せてやれ。最後にな。」
神の奇跡か。
急に言われても、どうしようかな。
周りを見渡すと、胡乱な目で見つめられる。
きっと誰も私を聖女だなんて思っていない。そんな視線が私に集まる。
この視線を掻き消すほどの奇跡か。
やっぱりこれかな。
ダリア様の聖火を覆い消す魔法の奇跡。
私は静かに、そして強力に魔力を編み上げた。




