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「どういうつもりだ、グレイス!聖王国の使者が来ているのなら、なぜ余に知らせない!」
側近の貴族を引き連れた陛下が、肩を怒らせて、こちらに近付いてきた。
その後ろには、王太子殿下とダリア様までいる。
「まあ、陛下!今はわたくしのお茶会ですのよ?レディアス、なぜ陛下をお止めしないの?ダリアまで連れてくるなんて。」
王妃様が扇で口元を隠しながら、蔑むように陛下を見ていた。
「何がお茶会だ!余と使者の会談が先だろう!それでもこの国の王妃か!」
「そうですよ、母上。今はダリアを認めてもらう事の方が重要です。」
陛下と王妃様の言い争いを、ダリア様はオロオロしながら見ていた。
私はその様子を、猊下の影から観察する。
「使者よ!なぜ余の招待を無視した?聖王国の重鎮とはいえ、一国の王に対して不敬ではないか!ん?なぜ、そなたがここに...」
詰め寄ってきた陛下と、猊下の肩越しに目が合った。
陛下の顔に困惑の表情が浮かぶ。
すると猊下は私の肩に手を置き、スッと席から立ち上がる。
長身の猊下が、目の前の陛下を見下ろしていた。
「そういえば、正式に名乗っていなかったな。」
ふっと風が止み、穏やかな日の光が猊下を照らす。
神が舞い降りたかのような光景に、誰もが口を閉じた。
「ティリウス聖王国第461代目司祭長レーゲンビリアだ。」
「「な!?」」「え?」
「私がここへ来たのは神の意思によるものだ。」
「や、やっぱり...」
ダリア様がキラキラした目で猊下のことを見ていた。
「ちょっと、ちょっと、リルメリア様!」
私の後ろに控えていたノルンが、声を顰めて話しかけてきた。
「騙されないで下さいね。猊下がここに来たのは、その日にあった会議が、嫌だったからなんです。ププッ。逃げてきたんですよ、あの方。しかも、さっきの光。あれ、魔法による演出なんで。よくやるんですよね、偉い人が来たミサで。今度その時の猊下の絵あげますね。これがまた笑えるんですよ。」
あ、うん。
ノルン、初めて会った時は真面目な方だと思ったんだけどな。
ちょっと笑い上戸というか。笑いのツボが独特というか。
でも優秀な方なのよね。そのギャップが凄い。
声を顰めて話していたのに、猊下にギロリと睨まれた。私達はすぐに背筋を伸ばす。
「リルメリア、こちらへ。」
猊下は先程の鋭い視線から一転、優しさを湛えた瞳を向けて私を呼ぶ。
「な、なんで!?どうして?」
猊下の横に微笑みながら並ぶ私へ、ダリア様が大声で叫んだ。




