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今日は学院がお休み。私はお母様との約束通り朝からマレーゼ先生の授業を受けている。
只今先生と2人でお茶会の練習中。
今の私は美味しいお菓子の味もお茶の香りも全く感じられていない。
でも和かに優雅な自分を演じている。
「大分良くなりましたね。もう少し指先も意識出来るようになれば更に良くなりますよ。」
「はい、先生。」
「ですが、マナーとは本来お互いが気持ち良く過ごすためのものです。型にはまりすぎず相手にとって何が最善か考えることも大切です。」
型にはまりすぎない。
その言葉がどこか心に残る授業だった。
「リヴァン先生!ちょっと相談に乗ってください。」
午後はリヴァン先生の研究室を訪ねた。
「先生、属性の魔力を意識して取り出すってどうしたら出来るようになりますか?」
私はここ最近のルーイ先生との授業を説明した。
「なるほど。魔力の属性が感じ取れない。うーん。そんなことある?逆に今までどうやって魔法使ってたの?」
「魔法陣を構成しようとすると、勝手に自分の中から魔力が出てくる感じですね。魔力量は意識して調整しますけど。」
「え?魔法陣が先なの?普通は属性魔力引っ張り出して、それを使って魔法陣描くんだけど。雷とか氷の融合魔法使う時は?」
「雷と氷も同じですね。」
「リルちゃんって僕が会った時すでに魔力のコントロール上手かったから、その辺り教えてなかったもんね。学院でも基礎過ぎて教えないのかも。盲点だったよ。もうさ。魔力の属性意識するのやめたら?」
リヴァン先生の対応がちょっと投げやりな気がする。でもやってみようかな。
散々やってきた温風を出す融合魔法なら、魔法陣の感覚が体に染み付いている。
私は魔法陣構成に意識を集中し始めた。すると自分の中の魔力が魔法陣に向かって流れ出すのが分かった。
いつもの感覚に身を委ね、魔法陣を完成させる。
初めて上手く出来た。
「リルちゃん、やったね。成功だ!でもそのままだと大爆発しちゃうから、一旦解除しようか。」
上手くはいったけれど、魔力量の調整を忘れて温風どころか爆弾になっていた。危ない。
「先生。これってどういうことなんでしょうか。」
成功したけれど、やっぱり私には魔力の属性を感じ取れなかった。
「ここからは僕の憶測なんだけどね。リルちゃんが魔力の属性を感じ取れないんじゃなくて、無いんじゃないかなって思うんだ。」
「無いってどういうことですか?」
「僕が宮廷魔法士だった頃、王宮の魔法記録室で読んだ本に書かれていたことなんだけどね。」
そう言ってリヴァン先生は、記録書に書かれていたことを、ゆっくり諭すように話してくれた。
その記録書は、まだ魔法士が魔法使いや魔女などと呼ばれていた時代の神官たちによる魔法の研究記録だった。
当時の教会は魔法士を神の使いか異端者かを決めかねていた。そのため、神官たちは各地を巡り、魔法士達の魔法を事細かに記録していった。
その記録の中には、占いや呪術、そして現代の魔法士も使っているような魔法、その他に神の軌跡のような魔法が書かれていた。
長い時間を掛けた検証の結果、結局教会は魔法士をただの人と定めた。けれど、その本の最後の記録者は、人がおこした奇跡の魔法は、神の願いによる無属性魔法と記していた。
無属性魔法。
私は思わず自分の手のひらを見てしまった。私がふと見る経験したことのないはずの光景は、この無属性魔法に関係するものだったのだろうか。
期待と不安が私の中に混ざり合う。
「大丈夫だよ。これは僕の憶測だし、そもそも君が無属性魔法を持っているかなんて、誰も確認出来ないんだしね。」
リヴァン先生は優しく頭を撫でてくれた。
「少しずつ出来ることを探っていこう。」
「はい、先生!」
不安はまだあるけれど、先生の優しさのおかげで、少しずつ溶けて薄れていった。




