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「う、ううん...」
目を開けると、柔らかな日差しがカーテンの隙間から溢れていた。
見慣れた天井に見慣れた家具。
帰ってきたという感覚が私を包んだ。
長く夢を見ていた。
そしてやっと私はもう1人の私を理解できた。
今まで頭の端にあった不思議な記憶や感覚は、理花のものだった。
今の私はどちらなんだろう。
リルメリアなのか、理花なのか。
リルメリアとして生きた15年と理花の29年が、私の中で混在している。
でも、私は私ね。
まだ少し混乱はしている。けれど、はっきりとそう思えた。
私はベッドから起き上がると、窓に近づく。
窓から外を見下ろしていると、ドアが開く音が聞こえた。
「リル!」
駆け寄ってきたお母様が、力一杯私を抱き締めた。
「良かった!本当に良かった...」
痛いぐらいに私を抱き締めたお母様の体は震えていた。
「ああ、目が覚めたんだね、リル。」
部屋に慌てて入ってきたお父様は、お母様ごと私を抱き込む。
両親の温かな体温に包まれて、私の心と体が震えていた。
安堵の涙が私の頬をゆっくりと伝った。
「リル、本当に大丈夫かい?まだ無理しなくていいんだよ?」
「大丈夫です、お父様。治癒士にも診てもらいましたし、回復薬も飲みました。ですからお話の続きを。」
「分かった。でもちょっとでも違和感を感じたら休むんだよ。」
「はい。」
邸中の皆んなの過保護に拍車が掛かり、私が目覚めて3日間はベッドから出してもらえなかった。
アルト商会の医療班から問題なしのお墨付きをもらって、漸く私は今の現状を聞くことができた。
「まずは、国の現況だね。夜会で王女様は聖女ではないと断言されてしまった。だから王女様は必死で他国に媚を売っているよ。夜会の招待客だった他国の王族に聖火を贈っている。友好の証としてね。」
アーレント王国では、聖火は信仰の対象でもあった。
神の慈悲を外交の手段にするなんて。全ての国に魔物の被害があるわけではないのに。
「王家は今、陛下と王妃様が対立しているんだ。陛下は王女様を使って聖王国との結びつきを強めたいみたいなんだよね。聖女がダメだったから次期聖王代理を狙っているんだ。ほら、聖王国って世襲制じゃないでしょ?それに反対しているのが王妃様。王妃様は現実主義者だから。でもこっちの方が厄介でね。どうやらアルト家が欲しいみたいなんだ。もちろん、お断りだけど。」
「貴族達はどちらを支持しているのですか?」
「ああ、それがね。というか、それが問題でね。いや、大問題になっていてね。」
珍しくお父様の歯切れが悪い。
邸の中の物々しい警備もそのせいなのかしら。
「お父様?」
「うーん、どこから話そうか。」
「私も参加しよう。」
ノックもなく、私の部屋のドアが開いた。




