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「ウィルフレイ様、ごめんなさい。私、またリルメリア様を怒らせてしまいました。」
ダリア様は涙を流しながら、縋るようにウィルを見つめる。
「まあ、ウィルフレイ様ったら遅いですわよ。騎士は聖女様を守らなければいけませんわ。陛下に叱られてしまうわよ?」
ベイルリーン様がダリア様を慰めながら、ウィルに妖艶な笑みを向けた。
「さあ、ダリア。騎士も来たことだし、僕とお茶でもしよう。」
「で、でもリルメリア様がっ!」
「じゃあ仲直りに、彼女も僕達のお茶会に呼ぶかい?」
ダンディーラー様が、急に私に顔を向ける。その瞳には、私を蔑むような冷たい感情が宿っていた。
「い、いや!怖い!それは、いやです!」
ダリア様は首を振りながら、ダンディーラー様の胸に顔を埋めた。
「だってさ。残念だったね、リルメリア。君、聖女様に嫌われちゃったみたいだよ?」
「そうみたいですね、残念です。」
ダンディーラー様が私を馬鹿にする様な視線を送ってくるけれど、どうでもいい。
「リルメリア様、この事は陛下に伝えますわよ?よろしくて?」
「はい、構いません。では、私は失礼致します。」
私は頭を深く下げた後、私の前に立ち塞がるリノアーノ様の横を通り過ぎた。
「強気な貴女は、いつまで続くかしらね。その綺麗な顔が絶望に歪むところを早く見たいわ。フフ、次に会うのを楽しみにしているわね。」
ベイルリーン様が嬉しそうに、うっとりと言葉を投げかけた。
私は再び頭を下げ、ベイルリーン様に背を向ける。
この方達とはこれ以上話したところで、理解し合えるとは思えない。
私は最後の用事のために、ドア近くに佇むウィルへと足を向けた。
「リングドン様、こちらをお返しします。元婚約者の私が、いつまでも貴方の戻り石を持っているのは良くないでしょう?」
私は胸元のペンダントを外し、ウィルに差し出す。
けれどウィルは、無表情で私の手を見つめるだけで、受け取ってはくれない。
私に触れるのも嫌なの?
「フフ、元婚約者に無視されるなんて。」
「ダリア様に不敬を働くからよ。自業自得ね。」
態々聞こえるように呟かれる声が不快だった。
最後まで私に向き合おうとしないウィルにも。
「そう。ならもう、これはいらないわね。」
私は手の周りに二重の強力な結界を張る。そして一気に高魔力を練り上げ、経過魔法を掛けた。
経過魔法は、対象物の時間の流れを急速に早める魔法だ。強力な攻撃魔法にもなりうる危険な魔法のため、人前で見せるのはこれが初めてだった。
私の手の中で長い年月を経たペンダントが、徐々に形を崩していく。やがて跡形もなく消えていった。




