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呼び出された学院長室には、新任の学院長と担任のアイメル先生の他、王宮の上級文官が席にも座らずに私を待っていた。
その表情は暗く重い。
「アルト嬢、貴女には失望しました。」
敵意を剥き出しに、文官が話し出した。
「自己紹介もなしに、いきなり何でしょうか?」
「アルト嬢!」
私の不遜な態度に、学院長が怒りを見せた。
でも私は態度を変える気はない。初めに礼を欠いたのはそちらだ。
「さすがは、聖女気取りと言われている方だ。年長者を敬うことも出来ないとは。」
はあ、ここでもなのね。本当にうんざりする。
「それで、何の要件でしょうか?」
「アルト嬢、貴女が提出した課題に陛下が酷くお怒りだ。あれは初代国王への冒涜ですぞ!」
「なぜでしょう?あの花は聖火と共に、この国の守りになります。」
「こんなものが?はっ、笑わせる。我が国は聖火で守られている。他は不要なのですよ。それとも貴女は王族に取って代わるおつもりか?」
「そんな事考えていません!」
私は声を荒げて反論する。
でもここにいる人達は、私を敵のように睨みつけていた。
「いいですか。今、王女殿下は聖女に認定される大事な時なのです。こんなもので、殿下を煩わせないでください。」
「申し訳ありません。学院は王女殿下を全面的に支援致します。2度とこのような事は起こしません。」
学院長は文官に頭を下げると、私が提出したプランターを床に叩きつけた。
「アルト侯爵家には、陛下より直々に処分が下されるでしょう。アルト嬢、貴女は聖女ではないのですよ。王女殿下に成り代わろうなど、なんと愚かな。しっかり反省しなさい。聞いていますか?」
文官は苛立ちを隠さずに、私を大声で叱責した。
私はそんな文官を無視して壊されたプランターに近付く。しゃがみ込んで土を払うと青い花が見えた。
土で汚れたこの青は、私の壊れかけた恋のよう。そう思うと悲しいはずなのに、笑いが込み上げてきた。
「フフ。」
「アルト嬢、貴女という人は!」
「アハハ。」
一度笑いが飛び出すと止まらない。私はしゃがみ込んだまま笑い続けた。
「アルト嬢、態度を改めないなら、こちらとしても厳しい罰を下すことになりますよ。」
学院長が私の肩に向かって、手を伸ばしてきた。
パシン
私はその手を強く払って立ち上がる。
「構いませんよ。お好きにどうぞ。」
なんとか笑いを収め、私は堂々と笑顔で告げる。
「では、さようなら!」
私は学院長の慌てた顔を見ながら、転移魔法を展開した。




