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「先生は主席宮廷魔法士様だったりします?」
私は恐る恐るルーイ先生に尋ねた。
「あはは。やっぱり気付いたー?そうだよ。本名はルイセント・グランディス。長いからルーイでいいよ。グレアムに娘自慢されてね。ずっと会いたかったんだ。君をこの学院に推薦したのも、リヴァンを紹介したのも僕。やーー楽しい。笑った笑った。」
ルーイ先生は椅子の背もたれに全身を預け、お腹を抱えて笑っている。
お父様、主席宮廷魔法士様とお知り合いだったのですね。
確か私を推薦してくれた方ってリヴァン先生の育ての親って言ってませんでしたか?
どう見てもリヴァン先生の方が年上に見えるのですが。
そしてそのうち会えるってこれですか。
私、恩人に色々やらかしてしまいましたよ。
私は心の中でお父様に文句を言った。
「主席宮廷魔法士様、遅くなりましたが、学院に推薦して下さったことも、リヴァン先生を紹介して下さったことも本当にありがとうございました。今までの数々のご無礼どうかお許しください。」
私は気を取り直して椅子から立ち上がり、深く頭を下げる。
「うん、どういたしまして。感謝は受け取るけど、謝罪は不要だよ。楽しんじゃったからね。じゃあ僕が君の先生ってことでいいかな?ほら、座って座って。」
「ですが、宮廷魔法士のお仕事はどうするのですか?」
宮廷魔法士の仕事が忙しくない訳がない。そもそも学院にいていいのだろうか。
「んー?大丈夫だよ。部下達みんな優秀だし。ここの部屋は自由に使っていいって許可を得たから転移魔法で色々繋げちゃおうと思ってー。兎に角、僕の心配はいらないよ?」
先生はいったい誰に許可を貰ったのか、気になるけれど気にしちゃいけない気がした。
けれど、本当に私はこのまま先生に甘えてしまって良いのだろうか。でもこんな機会なんてもう来ないかもしれない。自問自答を繰り返し、私は自分の気持ちに正直になることにした。
「ルーイ先生。私先生に教えてもらいたいです。ぜひよろしくお願いします。」
「うん。これからよろしくね。リルちゃん。」
「はい。先生。」
私はリルちゃんと呼ばれても気にならない程、これからの先生の授業が楽しみで仕方がなかった。
それからルーイ先生と私は今後の授業の方針を話し合った。明日からは午後の時間を中心にルーイ先生が実践的な魔法の授業を進めてくれる。私はまず自分の魔法の特性を把握するところから始めることになった。
いつか私も先生のように転移魔法が使えるようになるだろうか。
その後、先生と別れ、一度教室に戻ることにした。
「あら、リルメリアさん。」
教室にはアルベルティーナ様が1人で帰る準備をしていた。
「アルベルティーナ様は午後の見学には行かれたのですか?」
「いいえ。私の希望はもう決まっておりますの。今日はこれで失礼いたしますね。」
アルベルティーナ様は帰りも優雅に教室を出ていった。
あの優雅さは同じ女性として見習いたい。
教室で本を読みながらみんなが戻ってくるのを待っていると、ウィルが初めに戻ってきた。
「ウィル、おかえりなさい。みんなと一緒じゃなかったの?」
「うん。3人とも見たいところが初めからあったみたいだよ。僕はゆっくり見て回ってきた。」
「そっか。良さそうな先生はいた?」
「どうかな。僕の属性に合う先生には会えなかったからまた次回かな。」
ウィルの属性か。そう言えば、まだ私はウィルの属性を知らない。
「ウィルの属性って聞いてもいい?」
「うーん、どうしようかな。やっぱり秘密。」
ウィルは人差し指を唇に当てて微笑んだ。あまりの可愛らしさに、その後のことは、あまり覚えていない。




