3-69
予定より早く終わったお茶会の後、私は1人王宮の庭園を歩いていた。
ウィルの事実が頭を巡り、私は薔薇園から出るのが遅れてしまった。今はもう、ここには誰も残っていない。
使用人にローズを呼んでもらうのを諦め、私は足早に出口を目指した。
「キャッ!」
木の影から出て来た男性とぶつかってしまった。いつもならしない失態。
私を抱き留めている男性から離れようと腕に力を入れる。
ふと、私の体が気付いた。この嗅ぎ慣れた匂い、安心出来る体温に。
「リル...」
私の体がビクッと跳ねると、上手く動かなくなった。
それでも何とか体を起こし、真っ直ぐに立つ。
「ご機嫌よう、ウィル。」
久しぶりに近くで感じたウィルの体温に、このまま縋りそうになった。でも私のプライドが、ウィルと向き合う支えになってくれた。
「うん。」
「私、ウィルにずっと聞きたかったの。そうね、いっぱい聞きたいことがあるの。」
「リル、ごめん。もう行かなきゃならないんだ。」
ウィルは視線を下げたまま、一歩私から遠ざかった。
ウィルの表情を見れば分かる。話す気がない事ぐらい。
でも、私はこれだけは聞かなきゃならない。
「ウィル、貴方はもう私の事、好きじゃなくなった?」
「え?」
ウィルは勢い良く顔を上げて、私を見た。ウィルの瞳を見たのは、どれぐらいぶりだろうか。
「リル...」
ウィルの瞳の中には、どんなに探しても温かな光は無い。
失望。悲しいとはまた違う、絶望感が私の中に広がった。
「もういい...。もういいわ、ウィル。」
もう、待つのは辞める。
私には無理...
「失礼いたします、リングドン様。」
一瞬、ウィルの表情が歪んだ気がしたけれど、すぐに背を向けてしまった私には確認出来なかった。
「リル!待っ...」
「ウィルフレイ様!良かった。まだいてくれて。お父様が呼んでて。あっ、リルメリア様。」
走って来たのか顔を赤くしたダリア様が、ウィルの腕を掴んでいた。
「ダリア様、本日はありがとうございました。私はこれで失礼致します。また学院で。」
私はダリア様だけに頭を下げてから、すぐに踵を返す。決して後ろは振り返らない。
もう希望も期待も捨てて前に進むべき時なのだろう。
弱い自分は終わりにして。
息が出来なくなるぐらい痛い胸を押さえて、私は薔薇園を抜けた。




