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王妃様に誘われて座った席には、王妃様の家門の令嬢が揃っていた。
私はその中で当たり障りのない会話を和かに交わす。
そこへこっそりとやって来た侍女が、王妃様へ耳打ちした。
「はあ、まったく。」
王妃様は一瞬眉間に皺を寄せ、不快感を表した。けれど、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「皆さん、本日の主役を暖かく迎えてあげてくださいな。」
王妃様が視線を向けた先には、花のアーチの前に佇むダリア様がいた。
「ダリア、こちらで皆さんに挨拶を。」
「あ、はい。あの、今日は来てくれてありがとうございます。」
そう言ってダリア様は、招待客に頭を下げた。
会場には一気に、緊張をはらんだ空気が流れる。王族が頭を下げるのはまずい。
王妃様から漏れ出る怒りに、令嬢達が怯えていた。
「ダリア、こちらに。」
王妃様の扇子を閉じる音が、やけに大きく聞こえた。
「はい、お母様。あ、リルメリア様。」
王妃様の隣に座ったダリア様と目が合った。私は、すかさずダリア様に頭を下げる。
「ダリア様、本日はご招待頂き、ありがとうございます。」
「あ、はい。あの、来てくれないかと思ったので、嬉しいです。」
「ダリア、あなた...」
「あの!お母様、私、皆様にプレゼントを用意したのです。」
ダリア様は王妃様の言葉を遮ると、立ち上がって駆け出して行ってしまった。
怒りを隠しきれていない王妃様と、なんとか会話を繋いでいると、入り口の方からザワザワと声が聞こえた。
そこには複数の侍女を連れたダリア様が戻って来ていた。その侍女達は大きな箱を抱えている。
「こちらは、来てくれた皆様に私からのプレゼントです!」
侍女達が配りだした物は、手のひら程のガラスドーム状の瓶だった。
受け取った令嬢達から驚きの声が上がる。私も前に置かれた瓶の中身に息を呑んだ。
装飾の無い透明の瓶には、小さな聖火が揺らめいていた。
「ダリア!」
王妃様が勢い良く立ち上がる。椅子が音を立てて倒れ、近くに座っていた令嬢から軽い悲鳴が上がった。
「これは、どういうことです!」
「あ、あの、お母様。お父様には許可を得ています。」
「陛下が?」
「は、はい。この瓶は、お父様がウィルフレイ様に頼んで作ってもらった物なんです。凄いんですよ!聖火を入れておけるんです!だからお披露目を兼ねて贈ろうって。」
「私は何も聞いていませんわ。」
王妃様は怒りを露わにしたまま、ダリア様に詰め寄った。
それにしても、これをウィルが?
私は瓶に手を伸ばす。
仄かに温かい。光属性の魔力を感じる。
「ウィルフレイ様は、王家の血が濃いみたいで、聖火とも相性がいいんです。この瓶があれば、色んな人に聖火を届けられるんです!」
ウィルが王家の血筋って...
もう何が何だか。
私が今まで見てきたウィルって何だったの?
「皆さん、お茶会は終わりにしましょう。ごめんなさいね。」
王妃様が少し強引にダリア様を連れて退出した。けれど私は、中々席を立つことが出来なかった。




