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3-65

「お父様、リルメリアです。」


「入りなさい。」


ゆっくりドアを開け、私はお父様の執務室の中に入る。

お父様の机は、大量の書類と手紙に埋め尽くされていた。よく見ると、ソファや花を飾るサイドテーブルにも積まれている。



「散らかっているけど、座って。」


「はい。」

私が座ったソファの足元にも書類の束があった。権利書や売買契約書と書かれたその書類は、間違いなく我が家の財産。

こんな無造作に置いていて大丈夫なのだろうか。私は踏まないよう、足を少し遠ざけた。



「リル、体調は大丈夫?」


「はい、ゆっくり休めました。」


「良かった。」


倒れてから2週間、私はのんびりと邸の中で過ごした。学院にももちろん行っていない。お父様が遮断しているのか、その間は全く外の情報は入って来なかった。

でも今朝、私の下にティーナから手紙が届いた。

ティーナの魔法で届けられた手紙は、ウィルが学院に来たことを私に知らせてくれた。



「お父様、私は学院に行こうと思います。」


「そっか、私としてはこのまま辞めて欲しいんだけどね。」

お父様の優しい笑顔に決心が揺らぐ。

でも...



「お父様、私、もう少しだけ頑張ってみようと思います。でもダメだった時は助けてくださいね。」


私には支えてくれる人がいるから大丈夫。

ウィルから話を聞くまでは、逃げたりしない。


「もちろんだよ。でも無理はしないこと。約束だよ。」


「はい。」

私は大好きなお父様に思いっきり抱きついた。






「リル、おはよう。」


「おはよう、ティーナ。」


「はあ、相変わらずね。あそこは。」


ティーナが視線を向けた先には、令嬢達に囲まれたダリア様がいた。楽しそうに令嬢達とお喋りしている。その横には、ウィルが警護をするように張り付いていた。


一瞬、ウィルと目が合ったけれど、すぐに逸らされてしまった。


ウィルとは挨拶程度の会話は交わすけれど、まだまともに話は出来ていない。

ウィルは何故かずっと私を避けていた。


悲しくて、目を逸らされる度に泣きそうになった。苦しくて苦しくて、息が詰まるぐらい胸が痛かった。

でも最近は、悲しいと思う感情をあまり感じなくなっている自分がいる。

私の心が麻痺しているのだろうか。




「彼は、いつから騎士になったのかしらね。剣なんて振るえたのね。知らなかったわ。」

ティーナの嫌味が、教室中にしっかりと届いた。



「あら、アルベルティーナ様。リングドン様は、ダリア様を誰よりも敬愛なさっているのよ?」


「そうですよ。婚約者様は心が狭いのね。ダリア様を守るなということかしら?」


「リルメリア様、嫉妬なんて見苦しいわよ?」



はあ、この遣り取りももう何度目だろう。本当に煩わしい。

私はティーナの横で淑女の笑顔を貼り付けた。



「誤解がございませんよう。ウィルが決めた事なら私は止めたりしません。そうでしょう、ウィル?」


私が話し掛けても、やっぱりウィルは私を見ない。

私の心に諦めと失望が広がっていった。







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