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私の魔法はいつだって私の思いを形にしてくれた。
私は願いを込めて、魔力に祈る。
そう、理論なんて必要ない。
ただ、私の思いを魔力で描くだけ。
手のひらに温かい風が舞い込むと、砕けた水晶が虹色の魔力を閉じ込めて輝いていた。
「先生、これでいいですか?」
「そ、んな、魔法陣がない魔法なんて...」
驚く先生の手に、私は課題の水晶をそっと置いた。
「どうですか、私の魔法は?」
私は口を開けて呆然としているクラスメイトに余裕の笑顔を向ける。
「ふふ、さすがね、リル。なんだか騒がしいですし、帰りましょう。ご機嫌よう、皆さま。」
ティーナが嬉しそうに私の腕を掴んで、ドアへと促した。
「私も帰る!ロイド、ニルフも帰ろ!」
ティーナと反対側の腕に抱きついてきたリズベルもグイグイと私を教室から押し出した。
「俺、大丈夫かな?」
いつも強気なロイドが凄く緊張している。足が震えているのは、見間違いじゃないと思う。魔物を前にしても怖がらないのに。
「もう、しっかりなさい。たかが私の家じゃない!」
ティーナに促されて教室を出た後、私達はティーナの馬車に詰め込まれた。暫くして着いた先は、レブロン公爵家。
私も何度か招かれているけれど、いつ見ても圧巻。そして公爵邸は、室内も完璧な芸術品だった。
だから私もロイドの気持ちは凄く良く分かる。
「待たせた。ああ、挨拶はいい。座りなさい。」
サロンに入ってきたレブロン公爵が、挨拶もそこそこに私達に着席するよう促した。
私の横に座ったリズベルが私の手をギュッと握る。公爵を前に緊張しているのだろう。
「やあ、リル。みんなも久しぶりだね。」
「お父様!?」
少し遅れてお父様が入ってきた。
どういうこと?
私は内心首を傾げる。
「単刀直入に言おう。君達には学院を辞めてもらいたい。」
「え?」
公爵の厳しい物言いに、頭の中が真っ白になる。
「えー、公爵。その言い方だと、伝わらないかと。」
ショックのあまり動けなくなっていた私達に、お父様が助け舟を出す。
横を見るとリズベルがポロポロと涙を流していた。
「ごめーん。遅くなっちゃったー!あれ?」
重い空気の中、ドアを勢い良く開けたルーイ先生が上機嫌で入ってきた。
「ゴホン!ルイセント様はこっち。あー、リズベルちゃん泣かないで。びっくりさせちゃってごめんね。公爵は顔は怖いけど優しい方だから大丈夫だよ。」
ちょっとお父様!
ティーナと公爵が微妙な顔をしてお父様を見ていた。
「じゃあ、私から話をするね。」
「おっ頑張れ、グレアム!」
先生、お願いだからちょっと黙っててください!
私は切実にルーイ先生に願った。




