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「リルメリア嬢、大丈夫かい?」
「はい、アルバス様もお怪我は?」
「ああ、私は大丈夫だよ。それよりも、本当にすまない。貴女を守ると言ったのに。私は情けないな。」
私の隣に座ったアルバス様は、ひどく疲れているようだった。その美しい顔に隈が色濃く刻まれている。
「いいえ、そんな事ありません。アルバス様は、あの後から休まず事後処理をされていると聞きました。私にも手伝えることはありませんか?」
「ありがとう。貴女がいてくれるだけで心強いよ。でも貴女に謝らなければいけない事がもう一つあるんだ。」
眉間に皺を寄せたアルバス様が、項垂れるように顔を伏せた。
コンコン
「失礼します。」
ノックの後、無表情のウィルが入ってきた。
その腕にダリア様をエスコートしながら。
「ダリア様?」
なぜ、ここに?
どうして、ウィルといるの?
「あ、の、リルメリア様、私...」
「リルメリア嬢、私達が王都を出発した後、ダリアが聖火を生み出せることが分かったんだ。」
ダリア様は、王家の秘宝たる錫杖を手にしていた。
聖火は、年に一度、初代国王の血を引いた者がその錫杖に祈りを捧げてやっと灯せるものだ。
それをダリア様はお一人で出来るなんて。
「わ、私も何か役に立ちたくて。それにこの先のシルヴァンフォード領は今、魔物の被害が酷いって聞いて。そ、そこは、ウィルフレイ様の生家だって聞いて、私...」
ダリア様は、ウィルの腕を掴んだまま大粒の涙を流した。
ウィルの生家?
ダリア様は何を言っているの?
「ウィル、どういう事?私何も聞いていないわよ?」
私は疑念を込めた鋭い視線をウィルに送る。けれど、ウィルは私を見ることはなかった。
「リルメリア嬢、私達は聖火とランプを失ってしまった。しかし、この国には聖火が不可欠だ。だから、招火の儀はダリアが引き継ぐことになった。それに際して、メンバーも全て入れ替わる。私達は、ここでの事後処理を終え次第、王都へ帰還する。貴女には負担ばかりかけて申し訳ない。」
王都へ帰る。
それは仕方がない。私達は失敗したのだから。民を守るため、速やかに次に移行すべきだ。
でも、なぜウィルは何も言わないの?
私に何か言う事はないの?
どうして、さっきから私を見ないの?
どうして?
どうして?
「ウィル...」
私が呼ぶ声にもウィルは答えてはくれない。
「分かりました。」
私は了承の意を込めて、アルバス様に頭を下げる。
そして逃げ出すようにこの部屋を出た。
今はここにいたくない。
涙なんて見せたくない。
私は乱暴に涙を拭うと、廊下を駆け出した。




