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「リルたん、これでも飲んで落ち着きなさいな。」
美しい赤毛のメイドに戻ったレイズが、お茶を淹れてくれた。
ソファに移動しようとした私を、レイズが腕を掴んで止める。
「リルたん、今日はダメよ。悪いけど、私もウィルフレイ様に賛成だわ。大人しくしてなさい。」
「もう、レイズまで。私は大丈夫なのに。」
「リルたん。」
不貞腐れている私の頭をレイズが軽く小突く。
「私だって、分かっているわ。みんなには凄く心配をかけた。私の見通しが甘かったの。その、本当に、反省して、ます。ごめんなさい。」
大人な対応のレイズを前に、私も段々と冷静さを取り戻す。
後半、力無く謝る私にレイズは、仕方ないと姉のような表情で私の頭を撫でた。
「反省してるなら、よし!あの後、どうなったのか気になるでしょ?話してあげるわ。」
私が気を失った後、上の階で交戦中だった騎士達が駆けつけてくれた。ゲイツ様達もリークロン伯爵が雇った傭兵に襲われていたそうだ。
怪我を負っていたアルバス様は回復薬によりすぐに治療され、今はリークロン領の現状把握に務めている。あれからずっと、体を休めることなく、仕事をされているそうだ。
リークロン伯爵夫妻は権限を剥奪され、今は地下牢に監禁されている。
ジョーゼル・リークロンは教会からの護送中に逃走。今も捜索中だ。しかし、彼もまたサンクティーの薬で魔力の増強をしていたのだろう。体の一部に魔鉱石化が見られた。あの状態では回復は難しいそうだ。
子供達は学校の地下倉庫で見つかった。少し衰弱していたものの、命に別状は無かった。けれど、ルード卿が辺境の森で見つけた魔鉱石化した子供達は、既に手遅れだった。あまりにも酷い光景に心を痛めた騎士達が、子供達を手厚く埋葬したそうだ。そこは春になると沢山の花が咲くらしい。
「リヴァンが魔鉱石化した人の記録を取っていたわよ。きっとリルたんも知りたいだろうからって。」
悲しい犠牲に目を背けてはいけない。私もちゃんと考えなきゃ。
「聖火はどうなったの?」
「残念ながら消えてしまったわ。あのランプのアーティファクトも修理不可能だそうよ。ルイセント様が言うには、リルたんの回帰魔法でも無理だって。」
「そう。」
聖火が無ければ、この地の守りは弱くなってしまう。
王都にある聖火を再び分火することは可能なのだろうか。
「ほらほら、今はもう休みなさい!」
レイズは、私が持っている空のカップを奪い取った。
何だかレイズも何か隠しているような気がする。でもきっと今は答えてはくれないだろう。
私は仕方なく、シーツの中に潜り込んだ。




