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「リークロン領では、他国から優秀な子供を出自を問わず受け入れているそうなんだ。留学生としてね。奨学金制度も充実しているらしい。」
「リークロンの教育制度は進んでいると聞いていましたが、この人数を見ると王都以上の受け入れ規模ですね。」
ルード卿が資料を見ながら感嘆の吐息を洩らす。
でも、それには疑惑があった。
商会にスカウトしようと思っていた留学生がいなくなった。そうアルト商会の従業員に打ち明けられたのだ。
リークロン港に程近い場所にある支店では、繁忙期に短期で人を雇い入れていた。それは小遣い稼ぎの学生も多く、ちょっとした就職活動にもなっていた。
その中で一際、魔力も高く器用な子がいた。その子には学業の合間に魔道具の修理を手伝ってもらっていた。卒業後はアルト商会で働いてもらうつもりで。
しかし、その子が急に商会に顔を見せなくなった。心配した従業員が学校に問い合わせると、その子の家族が病気で急遽帰国したという解答が返ってきた。
「でも、その子は孤児だったそうです。親とは既に死別していて幼い頃から孤児院で生活していたと。」
「確かに疑問は残りますが、他国の孤児ですし、学校の職員が確認を怠った可能性もあるのでは?」
「はい。ですが、手紙すらなく帰国したその子を疑問に思い、商会の従業員が独自に調査をしていました。結果は、近年だけでも孤児、または平民の留学生が十数名帰国しています。それも友達や仕事先にも知らせずに急遽。」
「例の植物に関して暗部が動いているが、リークロンはどうも怪しい動きが多い。だから調査はいくつかに分かれて進めようと思う。」
アルバス様が侍従から資料を受け取り、テーブルに広げた。
「私とリルメリア嬢は学校に視察に行く。リークロンの教育方針を見学するという名目だ。セルゲイはリークロン領の魔物の被害を確認しつつ、伯爵の目を誤魔化してくれ。残りのメンバーには港の調査を任せる。サンクティーを入手した人物がいるのか探れ。」
皆んなが真剣な表情でアルバス様の命令を聞く中、ゲイツ様だけが引き攣った表情でルイ君を見た。
そんなに一緒が嫌なのかな。
「あら、可愛い子ね。こんにちは。」
「こ、こんにちは、お姫様。」
「ふふ、私はお姫様じゃないのよ?でも嬉しいわ。」
私達が視察に来た学校では、10代の子供達が様々な学問を学んでいた。少し無機質な校舎は広く、隣には大きな寮が建っていた。
昼休みの今は、子供達が思い思いに遊んでいる。
私は中庭でお喋りをしていた女の子達に話しかけていた。
「学校は楽しい?」
「楽しい!ちょっと外国語は難しいけど。」
「私も勉強は苦手。」
恥ずかしそうに笑った女の子が可愛い。
「魔法の授業はどう?私ね、魔法が得意なのよ!」
私は近くの花壇の花を一つ咲かせて見せた。
「すごーい!」
「本当!お姫様すごい!」
「私達のクラスにもね!魔法が得意な子がいてね!あっ...」
ぴょんぴょんと飛び跳ねていた子達が、急に寂しそうな顔をした。
「お友達がね、急に学校辞めちゃったの。お家の事情って先生が言ってたけど、その子少し前から体調悪そうで、体が痛いって言ってたの。だから心配で。」
「そうなの。それは心配ね。先生はその事を知っているの?」
「医務室の先生は知ってるよ!薬あげてたもん。体調悪そうだったから一緒について行ってあげたの!」
「そっか、優しい子ね。私も先生に聞いてみるから心配しないで。きっと大丈夫!」
「うん。ありがとう、お姫様。」
きっと大丈夫。
私は自分に言い聞かせるように、アルバス様の下へ急いだ。




