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「お嬢様、こんな感じでいいですか?」
意気揚々とこちらに向かってきたルイ君に、作業に駆り出されていた近くの町の住民達は、完全に及び腰になっていた。
美少年が笑顔で攻撃魔法を放っているところを見たら、そうなりますよね。ごめんなさい。
「え、えっと、皆さん。こちらの畑にこの種を植えてもらいます。よろしくお願いします。」
私は籠に入っている種を、まだ戸惑っている彼らに渡した。
「私も手伝ってきますね。」
「私も行くよ。」
私が直接やってみせた方が早いだろうと、籠から種を取り出すと、アルバス様が私の後について来た。
アルバス様が来ると護衛の騎士達ももちろんついてくる。
農作業に王子様と騎士って...ちょっと邪魔。
「これでいいのかな?」
「あっはい。大丈夫です。」
アルバス様は服が汚れるのも気にせず、種を植えていた。何だか楽しそうだ。
距離を置いてこちらを見ているルード卿は、少し呆れた表情をしていた。
騎士達の手も借りて、早めに作業を終わらせると、一度皆んなに畑から離れてもらった。
私だけが残った畑に、冷たい風が吹き抜ける。
私はそっと大地に触れた。
「お嬢様ー。頑張ってー!」
ルイ君の楽しそうな声援は放っておいて、集中する。
少し広い範囲に、なるべく長く私の魔力を大地にとどめる。
どうか、この大地が命を慈しんでくれますように。
私は願いを魔法に乗せる。
この地が私の願いに応えるように、優しい光に包まれ、種が芽吹く。
光が治まると、大地は生命力溢れる植物で埋め尽くされていた。
「すごい...」
誰かの呟きが聞こえると、急に歓声が上がった。
手伝いに来てくれていた領民が肩を抱き合って喜んでいる。中には声を出して泣いている人もいた。
良かった。喜んでもらえた。
「ありがとうございます、アルト嬢。これで民を守れます。」
真っ先に駆け寄ってきたネリテンス伯爵が、膝をついて頭を下げた。夫人も涙を流して伯爵に寄り添う。
「わ、私はできる事をしただけです!お願いですから、頭を上げてください!」
「本当に貴女は凄いね。私の至宝。」
伯爵夫妻と一緒になって座り込んでいる私を、アルバス様はうっとりした表情で見ている。
「貴女はやはり女神なのですね。光の中の貴女は慈愛の女神そのものでした。」
ゲイツ様は私の手を取ると、口付けを落とした。
この状況に混乱していると、ルード卿と目が合った。助けを求めて、私は必死に合図を送る。けれど、なぜか笑みだけ返された。
本当に誰か助けて欲しい!
「お嬢様ー。モテモテですね!」
ルイ君の一言に凄く腹が立った。




