3-28
晩餐を終えると、伯爵夫妻によってネリテンス領の代理領主達を紹介された。
彼らも交え、サロンで今後の話をしていると、代理領主の1人が威圧的に問いかけてきた。
「貴女がアルト商会の副会長と伺いました。単刀直入にお聞きしたい。あの結界魔道具を一部解くことは可能ですか?」
「ログドル!やめなさい!」
伯爵が強い口調でログドルさんを叱責する。
「申し訳ありません、アルト嬢。部下が大変な失礼を申しました。」
「いいえ、伯爵。気にしていません。ログドルさん、それは領民の収入源の問題ですね?」
「はい。このままでは、多くの民が冬を越せません。伯爵様も分かっておいでのはずだ。」
黙っている他の代理領主達の顔色も悪い。皆んな考えは同じなのだろう。
「気持ちは分かるが、まだ魔物の活性化は続く可能性がある。この国を守る騎士として結界を解くことは賛成できない。」
ルード卿が厳しい顔で告げると、彼らに落胆の色が浮かぶ。
「陛下にネリテンス領の現状を迅速に伝えると約束しよう。こちらも物資の確保に動くから安心して欲しい。アルト商会にも協力を仰ごう。」
アルバス様の言葉に、少し安堵した空気が流れる。
「あの、その事で私から皆様に提案があります。」
私が背筋を伸ばして発言すると、全員の視線が私に向く。
「冬に向けて、ある植物を育てようと思います。」
「アルト嬢、ご存知だとは思いますが、この地は植物の育成には適していません。それにこれから益々寒くなりますから、今から植えても冬までには育たないでしょう。」
すまなそうに告げる伯爵に、私はにっこり笑って続けた。
「ご心配なく。この蜜芋は、寒さに強い植物なのです。地下に根を張り、その根に沢山の実を付けます。葉も実も食べられて栄養価も高い、この地にぴったりの植物なのです。」
「そんな植物が?」
「はい、品種改良を重ねて作りました。どうですか?試してみませんか?」
この蜜芋は、本当はリングドン領で妖精達と作った魔法の植物だったりする。なぜか寒い場所を好むため、今まで大規模に栽培出来なかった。これを使ったお菓子は美味しかったので、これを機に生産量を増やしたい。
「でも冬までに育つのだろうか。」
「それはアルト商会にお任せ下さい!」
アルバス様の疑問に、私は自信を持って答えた。
「必要なのは、広い平坦な土地と、その土地を耕す人員です。」
「それは任せて下さい、お嬢様!」
私の後ろから自信満々に1人の少年が飛び出してきた。
その少年の青灰色の髪と目に、ものすごい既視感を覚える。
「僕、穴を開けるのは得意です!」
いえ、穴は開けません。
私が顔を引き攣らせていると、アルバス様がマジマジと少年を見ていた。
「アルト商会の子?」
「す、すみません。私の助手見習いのル、ルイ君です。」
アハハと誤魔化してみる。ああ、胃が痛い。
「ルイくーん。その話はまた後で。ちょっとお部屋でお話ししましょうね。」
私は今後の決断を伯爵に任せ、少年を連れて一足先にサロンを出た。




