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3-26

 小高い丘に建っているネリテンス邸では、その領都を一望することができる。冬の寒さが厳しいこの地域は、石造りの家が一般的で、全体が要塞のように見えた。




「まだ昼間なのに、人が全然いないわね。」


私は、ロバートとライ、レイズを連れて領都にあるアルト商会の支店を訪ねることにした。

わくわくしながら踏み入れたこの領都は、どこを見ても人はまばらで活気がない。商業区も閑散としていた。


「お嬢様、治安があまり良くないかもしれません。1人で行動はしないで下さい。」

ライは私を守るように距離を詰め、周りを警戒している。


「分かったわ。」

私は歩く速度を早めて目的地を目指した。






「食料の不足?」


「はい、副会長。」


アルト商会ネリテンス支店に着くと、この地域を任せている支部長が今年のネリテンス領について詳しく話してくれた。



「元々ここは、あまり作物が育たない土地なので、領民は近くの森で狩りや果物などの採取を行っていたのです。こちらのシロップはご存知ですか?」

支部長が棚から1本の瓶を取り出し、机の上に置いた。飾り気の無い瓶の中には無色の液体が入っていた。



「これは、カデの木から採取できるシロップです。風邪予防の効果があり、昔から北部の地域ではお茶に入れて飲まれてきました。口に入れると花の香りが広がる特徴があります。」


私は、レイズが用意してくれたお茶にシロップを入れてみる。仄かに甘みの加わったお茶は、余韻に爽やかな花の香りを残した。これは美味しい。


「気に入っていただけましたかな?」


「はい、凄く美味しいです。」


「北部の森は、このカデの木のような、そこにしか自生しない貴重な植物も多く、この地域の民を支える資金源になっていたのです。けれど、今年は魔物の増加で森には近付けなかったようです。」


「魔物の被害は?」


「被害自体は多くありません。魔法騎士を始めとした討伐隊が迅速に対応してくれました。我が商会の結界魔道具も問題無く機能しています。ですが...」


「魔物から町を守るために張った結界のせいで、今も森に入れないのね。」


「はい、そうなのです。ネリテンス伯爵様は素晴らしい方で、飢える領民のために備蓄している食料を配って下さっていますが、いつまでもつか。」


領都の経済が回っていない現状を見ても限界は近いはず。しかもこれからこの地には厳しい冬が来る。



「レイズ。転移ポータルの設置をリヴァン先生と任せてもいい?」


「いいわよ!リルたんの頼みですもの。頑張るわよ!」


転移装置があれば、各地から物資を送ってもらうことができる。最悪の事態は防げるはずだ。

そして、私にはもう一つ出来る事がある。



「ロバート、ライ。一度、ネリテンス邸へ戻ります。」


事を起こす前にまずは、ネリテンス伯爵に相談しよう。

支部長に挨拶をして部屋から出ようとするとニヤニヤしたロバートと目が合った。



「ええっと、お嬢様。リルたんって呼び名いいっすね。」

ボソリと呟いたロバートにライが見事な蹴りを入れていた。






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