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あの後、部屋に戻った私は夕ご飯も食べずに寝てしまった。起きたら朝だったは、これで何回目だろう。ラナ、ネル、いつもありがとう。
午前中はゆっくりと過ごし、午後にリヴァン先生の研究室を訪ねる。
ちなみに私の研究室はリヴァン先生のお隣の部屋だ。お互いの研究室は内扉で繋がっていて、すぐに行き来ができる。お父様が王都でも私達が研究できるようにと、態々離れの研究室を建ててくれていた。
「リヴァン先生。これが昨日完成した解析魔法なんです。でもちょっと使用する魔力量が多くて。改良点を考えたいです。」
「あっ見せて見せて。これってどこまで見れるの?うーん。僕はこれが完成系だと思うけどな。これ以上弄るとバランス崩れそう。魔力使用量の問題は、見える箇所をもう少し限定的にしてみるのはどう?それなら抑えられると思うんだよね。」
流石です、先生!
あの時の私はアリアを助けたい一心で焦っていたようだ。
「よし。じゃあ僕が報告書纏めておくからリルちゃんは魔法陣を転写しておいて」
「はーい。」
先生と私の気安い師弟関係は、淑女を目指す私はとしては失格だと思う。でも我が家の暗黙の了解で研究室には誰も来ない。たまに研究室の外でマレーゼ先生に見つかり、厳しい視線を向けられるけれど、怒られたことはない。
きっとこの関係には目を瞑ってくれているのだろう。
先生と私がお父様に渡す報告書を作っていると珍しくノックの音が聞こえた。
今この部屋には私達2人しかいないので、自らドアを開ける。先生は書類に没頭中だ。絶対に聞こえていない。
ドアの外には、お父様の侍従が手紙と可愛らしい白い花束を持って立っていた。
「研究中、申し訳ありません。お嬢様にお手紙でございます」
手紙と花束はウィルからのものだった。
私は報告書を中断し、手紙を開ける。
ウィルらしい、丁寧な文字が並ぶ手紙には、ウィルが来週から学院に通うことが書かれていた。
『追伸
この花を見て、初めて僕の前を横切った君を思い出したよ。』
私は机に置いた花束を見る。真っ白の小さな花に真紅のリボンを巻いた花束。
昨日の私の姿を思い出し、思わず下を向く。間違いなく私の顔は真っ赤だと思う。リヴァン先生がこちらに気付いていなくて本当に良かった。
その後、全く集中出来なくなってしまった私は、早めに部屋に戻りウィルに手紙を書くことにした。
私もウィルと一緒に来週から学院へ行こう。お友達ができるかな。不安もあるけれど、楽しみな気持ちが大きい。
手紙を書き終え、私は早めに一日を終えた。




