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お父様がアルト商会の新たな事業として、転移魔法を利用した国内主要都市を繋ぐ運送システムの構築を発表した。
新事業の発表は荒唐無稽な夢物語と馬鹿にされたけれど、アルト家で開いた夜会で簡単な実演を行うと瞬く間にその事実が国中に伝わった。
またその実演を私が行ったことで、私の実力も証明することが出来た。
すると今度はお母様が、私の過去の実績を社交界で触れ回るようになった。
もちろんまだ、当時10歳程度だった私が王国民の生活を変えるような魔道具を開発したなんて信じない人も多い。けれど、事業提携をしているレブロン公爵家やリングドン子爵家がその事実を認めたため、徐々に社交界で受け入れられていった。
そして今日、遂に来た王家とアルト家の公式な場での話し合い。
アルト商会が発表した事業は、王侯貴族だけでなく、地方領主や商会、そして医療や軍事関係者に至るあらゆる分野の人が注視することになった。
その開発者兼責任者である私を軽視出来なくなった王家は、招火の儀使節団のために開催される激励会の前に、私達と公式な会談を持つことにした。
「よく来てくれた、楽にしてよい。」
頭上から掛けられた声に、私はゆっくりと頭を上げる。
「お招き頂き光栄でございます、国王陛下、王妃陛下。我が国に浄化の祝福が続きますよう。」
「ありがとう、アルト子爵。夫人もリルメリア嬢も久しぶりね。」
謁見室には国王陛下と王妃様がゆったりと玉座に座り、横にはアルバス様が控えていた。
「此度の件、引き受けてくれたアルト嬢には感謝する。それで?本当に転移魔法がこの国で、利用出来るようになるのか?あの魔法は、我が国では主席宮廷魔法士にしか出来ぬと聞いたが?」
「はい、我が娘はグランディス主席宮廷魔法士に師事し、既に転移魔法が扱えます。この事業も初めから娘が進めているものでございます。」
「うむ。まさかこのように若い令嬢がな。」
「陛下、私も彼女のクラスメイトとしてその素晴らしい魔法をこの目で見ております。間違いないかと。」
アルバス様の言葉に、国王陛下が大きく頷く。
そこへ、入室許可を求める声が聞こえた。
「通せ。」
国王陛下の返答の後に、宰相が入室してきた。その後にダリア様が続く。
「遅くなり申し訳ありません。」
宰相が深く頭を下げて詫びるとダリア様も頭を下げる。
「して、ダリア。お前は本当にこの儀式に参加しないのだな?これはお前が皆に認められる良い機会なのだぞ?」
宰相の隣にいるダリア様は、ゆっくり顔を上げると縋るように国王陛下を見つめている。
「お父様、私はどうしたら...」
「はあ。」
王妃様は、縮こまるようにして立つダリア様に溜息を吐いた。
「陛下、この子では無理ですわ。アルバスとリルメリア嬢に任せましょう。」
「うーむ。しかしな...」
はっきりしない態度の国王陛下に、王妃様の笑顔が段々と凍りつく。
「ダリア、あなたは、優秀な人材で構成された使節団を先導し、騎士達を従わせ、各地で国民の支持を得るという大役を務められるの?ただいればいいという訳にはいかないのよ?」
「グレイス...」
王妃様の厳しい物言いに、この場の空気が引き締まる。
「で、でもリルメリア様は...」
「リルメリア嬢は、使節団の代表者たるアルバスを支える大役を務めるの。彼女なら分火した聖火を守る実力があるわ。しかもアルト商会副会長という国民からの高い人気もあるでしょう?あなたはそれに匹敵する覚悟があるの?」
「わ、私は...ただ皆んなに認められたくて。」
泣き出してしまったダリア様に、王妃様は再び大きな溜息を吐いた。




