サーカスに見た夢 【月夜譚No.239】
町の何処にいても、サーカスのテントが見える。それだけ小さな町なのに、あんなに大きなサーカス団が訪れる日がくるなんて、思いもしなかった。
明るく楽しい音楽と剽軽な動きをするピエロ、着飾った軽業師に従順に吠える猛獣――どれもが初めて見聞きするもので、無視しようなんて思っても心が自然と躍るのを感じる。
少年は襤褸の服を着たまま、仕事の合間を縫って両親に見つからないようサーカスのテントに足を運んだ。
こんな恰好で大丈夫だろうかと心配していたが、団員達は見かけや生まれに関係なく誰でも煌びやかな世界に誘い込んだ。
少年はサーカスが見せる世界に釘付けになった。楽しく笑ったり、緊張にハラハラしたり、驚きで目を見開いたり。周囲を見てみると、少年と同年代の子ども達が同じようにショーに吞み込まれていた。
世界には、こんなに楽しいことがあるのか。こんなにも心動かされるものが存在するのか。
少年は、そのキラキラした瞳に楽しい世界を焼き付けた。彼等と同じ方法でなくても良い、同じように誰かの心を動かせるような、そんなことがしてみたい――。
それから十年。成長した少年は狭い町を飛び出して、世界の片隅で人々の笑顔を微笑んで見ていた。