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 輝弾操士になると大半の人間は召喚操士サモンマスターになりたがる。シャイルもその一人だ。

 召喚獣は一人につき一体という定めはないが、大半は一体のみの使役で落ち着く。一つは召喚の際に用いる召喚札サモンカードが高価なためだ。ただ、学院へ入学した者に一枚は無償で配られる。

 木製の扉を開けて通されたのは、ねっとりした雰囲気の暗い部屋だった。

 中心には小さな机、その上にはローソクの小さな火が灯されているだけだ。暗黒の空間を照らすにはその灯りはあまりに儚い。

 シャイルの対面には机を挟む形で、黒いフードを深々と被った女性が椅子に座っていた。

「どうぞ、お掛けになってください」

 部屋の雰囲気に呑まれて佇んでいたシャイルはハッとなって我に返る。

「す、すみません」

 シャイルはうわずった声をあげながら、慌てて椅子に座る。女性との距離がより間近になったので、シャイルはまじまじと見つめてしまう。それを察した女性はよりフードを深く被ってしまう。

「ごめんなさいね。ここでは顔を見せない決まりになっているの。声帯も変えてあるから、外で出会っても私の正体はわからないようになっているのよ」

 少しいたずらっぽく女性は笑う。

「い、いえ、僕も詮索する気はなかったんです」

「わかっているわ。さて、早速はじめましょうか」

 シャイルの前に六枚のカードが並列で机の上に規則正しく並べられている。

「あなたはこの中からカードを一枚選ぶのよ。そのカードから、あなたの召喚獣が出てくるわ。でも、召喚獣を出すときはこの部屋から出たところの庭で行うようにしてね」

 ――昔ひどい目にあったから、と女性が付け足した。

 並べられたカードはどれも同じ大きさ、同じ柄である。その中から一枚を選ばなければいけないという。

(さすがに迷うよね)

 それでも選ばなければいけないというのだから困ったものである。これでは埒があかないのでシャイルは覚悟を決めて自分の右から三枚目のカードを選ぶ。

「これにします」

「そう。あなたにとって良き出会いであることを祈ります」

 それでこの儀式は終わりだった。

 この儀式は召喚札サモンカードの儀と呼ばれている。噂によれば、実際はどのカードも表は無地で、輝弾操士が手にとった瞬間に召喚獣が自然と宿るらしい。効果のほどはわからないが、敢えて選ばせることによって集中力を高めさせ、より強い召喚獣を手に入れられると信じられているのだ。

 召喚獣の種類は多種多様で、不思議な不思議な存在だ。その数は一五一、二〇〇、いや、それ以上かもしれない。それだけに誰もが自分の召喚獣がどんな姿を気にする。だから、どちらかというと願掛けの意味のほうが強いかもしれない。

 シャイルは部屋をあとにして渡り廊下を挟んですぐそこにある庭に出る。召喚の館は本校舎より一キロほど離れたところにある。その庭たるや広さとしてはもはや広原と言ったほうがいいのではと思ってしまうほどに広大である。

 そこでシャイルは召喚札を高々と掲げる。すると召喚札は粒子となり光を放ちながら別の姿へ変質していく。

 それが形をはっきりと現すのに数分かかっただろうか。それは純白にした凛々しい子馬であった。しかし、その馬はただの馬ではない。足が八本存在したからだ。

「スレイプニルだ」

 シャイルは目の前に現れた召喚獣にたしかな感動を覚えていた。

 スレイプニルは自分の主人を愛おしそうに見上げる。既に彼らの主従関係は出来上がっていた。「よろしく」

 シャイルはスレイプニルの頭を優しく撫でる。

 彼の黒い外套が風にたなびく。その外套には赤い盾の紋章が刻まれていた。

 この盾の紋章は学院生たちに大きな意味を持つ。この紋章は学院生たちが何を成したのかを示すものだからだ。


 一、ワンドは火を象徴して、召喚操士のことを指す。

 二、ソードは風を象徴して、戦闘操士バトルマスターのことを指す。

 三、聖杯カップは水を象徴して、治癒操士ヒールマスターのことを指す。

 四、ペンタクルは地を象徴して、知識操士ウィズダムマスターのことを指す。


 それぞれ七ランクで評価され、四つの紋章に象徴するアルカナ――召喚操士であるなら棒が縫いつけられる。棒が七本縫いつけられている紋章はそれが召喚操士として最高位の学位を手に入れたことを示すものである。

 シャイルは学位を身につけてはいないものの召喚獣を手にすることで、外套に火の盾の紋章を縫いつけることができるというわけだ。

 これは余談であるが、学院内では四つの学位を極めようとする者がいないわけではない。よって、外套には四つの紋章が縫いつけられるようにできている。

 極める気はなくても、紋章を二つ以上持っている者もそれほど珍しいというわけでもないのである。

 シャイルはここでの用事が終わったと一息ついて、その場をあとにしようとした。すると待ち構えていたかのように三人の男子生徒が物陰から現れる。

「おめでとう、シャイル・ベルティオード!」

 そう言ったのはグルンナインだった。横にいるのは彼の取り巻きをやっている二人だ。

 こんな人気のないところまでわざわざやってくるのだから、素直に歓迎してくれているというわけではなさそうだ。

「ありがとうございます」

「なあに、俺たちは兄弟みたいなもんじゃねえか。称えあうのは当然のことさ」

 グルンナインはフレンドリーを気取ってシャイルの肩に手をまわしてくる。

 その間には「おい」とグルンナインは他の二人に顎で指示をすると、二人は召喚棟への玄関口に向かっていく。

 それの意味することは一つ。二人を見張りに行かせたということだ。

「だから俺にちょっと付き合え」

 ニヤリとグルンナインは笑った。


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