前例の無い婚約破棄により王子に訪れる『ざまぁ』。巻き込まれたヒロイン。痛みに耐えながらも、全てをスルーした悪役令嬢のテンプレストーリー。
りすこ様の「王子は婚約破棄をするプロです」という小説のキャラが面白すぎて、キャラの性格とシチュエーションをお借りしました。苦手意識があった『ざまぁ』小説へのチャレンジ頑張りました。(`・ω・´)
卒業パーティ。
婚約者のファースト王子の姿が見えない事に気が付いた。周囲も異変に気づいたのかザワザワし始めている。
そっと気になるクラスメイトの顔を見る。青ざめており、緊張した面持ちだ。
昨晩、公爵令嬢である私の寮の部屋に訪れた彼女の様子を思い返した。
「王子が卒業パーティで、あなたとの婚約破棄を企てています」
うっかり聞いてしまった秘密を胸に納めておけない、と悲痛に訴える彼女を。
突然、大きな割れる音が聞こえた。慌てて音のした方に顔を向けるとありえないものが目に映っていた。白馬に乗った王子様だ!庭園に面しているホールの大ガラス窓をぶち破ったらしい。
いいのかしら?あの窓ガラス、とても高価なはず……
学園長が青い顔をしている。王子の所業にびっくりしたというより、隣で青筋を立てている事務長が怖いみたいね。
「HAHAHA!ヴィラン公爵令嬢、君とは婚約破棄をする!」
こっちを向きながら叫ぶ王子。金髪をかき上げるふりをして、頭上のガラスの破片を払っているけど、怪我をしないかしら?
口元も光っている気がするけど……
きっ気のせいよね!確か彼は白く輝く歯を自慢にしていたし!
慌てて破片が口内に入ってしまった可能性を頭から振り払う。ハンカチで口元から出る血を拭った気がするけど……
うん……彼の動作が早すぎて、私には何も見えなかった!という事にしてスルーする。
得意そうにポーズを付けている彼には、周囲からの痛いほどの視線が目に入らないみたい。あの強靭なメンタル、本当に見習いたい。
そしてこちらを指さして喋らないで欲しい。わたくしには鋼鉄のメンタルの実装がすんでいないのだから……
「僕は君との関係にうんざりした!!」
お願いだから指をささないで!
まあ、彼が婚約破棄をしてくれるお陰で私も愛する人と結婚できそうだけど。その愛する人の顔を盗み見てみた。
側妃から生まれた第二王子のセカンド殿下。弟だけど歳の差は数カ月違い。王太子であるファースト王子とともに、今日卒業式を迎えるはずだった。
皆の注目を集めるのが好きな第一王子と違い、目立つことを好まず思慮深い性格。慎みがあり繊細な側妃様そっくりな性格だと評判だ。
皆が見守る中、ファースト王子はツカツカと進みピンクブロンドの可愛らしい令嬢の手を取り、肩を抱き寄せた。
最近、学園で噂になっていたアクトレス男爵令嬢。父親の男爵が愛人に産ませた子ども。平民として暮らしていたが、実母の病死をきっかけに男爵家に引き取られたらしい。
母親譲りの儚げな美貌と、庶民らしい物おじせず気取らない性格。興味を持った王太子がたびたび話しかけてたのを何人も目撃している。
不穏な事を企てているのでは、と言ってくる人もいたが流石に無いだろうと考えていた。昨日、寮の部屋に訪ねてきたクラスメイトの密告が無ければ。物思いにふけっていると王子が一方的に話し始めた。
「もう一度言わせてもらおう。僕は彼女との真実の愛に目覚めた!君との婚約は破棄させてもらう!!」
無駄に滑舌の良い王子からの言葉に我に返る。
いけない、いけない。それにしてもファースト王子は、人を煽るのが上手いわね。気のせいか大袈裟な動作にまでイラっと来るわ。鏡に向かってむかつくポーズでも練習しているのかしら。発声練習もしてたりして。
シャンデリアの明かりの下で笑顔も光り輝いている気がするけど……。
えーっと、きっと注目を浴びられて嬉しいから輝いているように見えるだけよね!
ガラスの破片が頭部に残っている危険性をなかった事にする……大丈夫……せいぜい出血するだけよ……ハンカチで拭けば大丈夫よ……。
スルーよと自分に言い聞かせながら、キリキリと痛む胃に手を当てる。
周囲からの痛いほどの視線に気が付いた。
早くあの馬鹿王子の所業を止めて欲しいと言う懇願の目を……。せめて胃薬を飲ませてからにして欲しい。
「王子……茶番は止めて頂けますか……」
「なっ何を言っているんだ!僕は婚約破棄をすると宣言しているんだぞ!」
「あーなんのためにですか?」
スルーするのは我慢した。だから聞き方が多少、おざなりになるのは大目に見て欲しい。
「だから真実の愛に目覚めたからと言っているじゃないか!僕は政略的な思惑で押し付けられた、婚約者にはうんざりだ!君との約束を破棄し愛する彼女を新たに婚約者とする!」
「そうやって馬鹿な企てをした王太子として廃嫡されるのが狙いですね」
動揺しているファースト王子をスルーし畳みかける。
「ファースト王子がわたくしと婚約破棄をしたければ、正規の手段を取れば良かったのではないですか?殿下はいずれこの国の王となる予定です。一国の君主という重責を愛する人に支えて欲しいと願えば要望は通るはずです。我が公爵家も喜んで同意したはずです」
公爵家に代々伝わる秘薬の胃薬。王子の婚約者に決まった時に製法を伝授された。調合法の紙を渡すときの父の震えていた手を思い出す。父はわたくしに似て、責任感が強いわりに神経が細い。わたくしを王子と婚約させた事に負い目を感じていた。
「それにもかかわらず、衆人が見守る中で馬に乗りながら婚約破棄を高らかに宣言。さすがの王子でも正気の沙汰では無い、と理解されていたと思われます」
「……自分でやっておいてなんだけど、そこまで言われるほど酷かった?」
「いかに自分を狂人に見せるか。素晴らしい演出でした。婚約破棄の宣言も100回ぐらい練習したんじゃないですか?」
「何を言うんだ!せいぜい50回ぐらいだ」
本当にリハーサルをしてたんですね。しかも50回……
「いいえ200回は行っておりました」
その驚くべき言葉の主は王太子の隣のアクトレス令嬢からだった。にっ200回?それに付き合ってあげたの!?
「なぜ君がそれを!」
……そしてファースト王子は別の事に驚いていた。
「実は昨日、彼女が寮のわたくしの私室を訪ねに来てくれたのです。『ファースト王子があなたとの婚約破棄を、明日パーティー行うつもりです』と」
まあ、まさか白馬で窓ガラスをぶち破って登場するとは想像もしてなかったけど。
そっと愛する人の顔を盗み見る。
「アクトレス令嬢から動機も聞きました。セカンド殿下を王太子とし、わたくしと結ばせようとしたのですね」
愛する人、セカンド王子は自分が話題に登ったことに表情を強張らせた。誤魔化しきれないと察したのかファースト王子の独白が始まった。
「僕はずっと周囲から自分は国王になるのだと言われてきた。幼いころは何も疑問に思わなかった。しかし、いつしか自分は王位には相応しくないという事に気が付いた」
むしろ、今の王族ではファースト王子以外には無理だと思うのだけど……突っ込むのが面倒なのでとりあえずスルー。
「武芸も勉学も教師達は手放しで僕を絶賛した。しかし、一緒に講義を受けていた弟には、みな『良いです』としか言わなかった。僕よりもずっと上達も早く優秀であるのにもかかわらず。試しに愚か者を装い馬鹿な真似をしてみた。誰一人諫めようとすらしなかった」
殿下はご存じないかもしれませんが、褒められて調子に乗ってやる気を出す子どもと、プレッシャーで潰れる子がいるんです。
国有数の指導力を持つ教師達は、それぞれに合った声掛けをしていただけです。ちなみにわたくしも後者。期待していると言われただけで胃が痛くなります。そしてファースト王子の今までの派手な所業は演技だったのか。てっきり素だと思ってた。
「セカンドの方が王様に相応しいんじゃないかと母に問うてみた事がある。母は全く取り合わなかった。『側妃殿の気質を受け継いだあの子に、国王が務まるはずがない』と」
まあ、正しい判断ですわね。出来れば王子に理由も説明しておいて欲しかったけど。王妃様はその辺の機微には疎い方だし、仕方ないわね。
「父にも訴えてみた。しかし、王妃である母に配慮したのか同じ事を繰り返された。『セカンドには無理だ。お前が国王になるべきだ』と」
この場合、王妃様がセカンド王子と国王に配慮しているのだけど……
「元々、父は幼馴染の側妃殿と婚約が結ばれていた。しかし、押しが強く厚かましい僕の母が侯爵令嬢という身分を傘に横入りし、正妃の座に収まったのだ」
やっぱり勘違いしている。
「……僕の母は愛する2人を引き裂き、ボクは栄光の道を歩むはずだった弟を日陰に追いやったんだ」
一人で盛り上がっているところを申し訳ないが、実情と乖離があることを理解してもらおう。
「わたくし、ファースト殿下との婚約を取り止めてセカンド殿下と結ばれたいなんて微塵も考えていませんでしたよ」
「嘘だ!」
「まあ、確かに恋愛感情があるのはファースト殿下にではなく、セカンド殿下ですが……」
「だったら……」
「でも婚約破棄なんてしませんよ。だって恥ずかしいじゃないですか。目立つし噂になるし」
「へっ?」
まさにその恥ずかしい婚約破棄を申し入れたファースト王子は、私の返事に止まってしまった。
全ての人間が、自分と同じ鋼鉄のメンタルを実装していると考えないで欲しい。
「あとセカンド殿下は本心から、ファースト殿下に国王になって欲しいと思っていたと思いますよ」
セカンド王子を見ると全力で頷いている。
「そんな馬鹿な!僕はこの間偶然聞いてしまったんだ!弟に、こんど渡航するからついてきて欲しいと君が頼み込んでいたのを。『こんな境遇はもう耐えられない』って涙ながらに……あれは駆け落ちしようとしたんじゃ……」
「来月の全世界君主会議に、セカンド殿下も同行してくださるようお願いしてたんです」
「まさかの出張同行願い!?『僕に勇気がないばかりに君を不本意な立場において』って言ってたけど」
「ええ、あの君主会議の空間に一人だけまともな神経を保つのは、大変不本意で耐えがたき時間です。ファースト殿下には理解できないかと思われますが」
ちなみにセカンド王子にはあっさり断られた。青い顔で冷や汗をかきながら。諦めて携帯している胃薬を差し上げた。
「そもそも、殿下の思い込みが最初から間違っているのです。王妃様が国王と側妃様の間を引き裂いたわけではございません。若かった頃の国王と側妃様が2人して正妃になって欲しいと頼み込んだのです。押しが強く細かい事を気にしない性格だと当時から評判だった侯爵令嬢に」
たっぷり時が流れた。
皆が息を潜めるなか、ようやく王子は声を上げた。
「…………どういう事?」
一から説明しなければダメか。
まあ、誰もわざわざ教えたりしないわよね。国王や側妃様も自分の恥を晒さなきゃいけないし、
ましてや侍女や従者が伝えるべき事ではないし。
「国王と側妃様、そしてここにいるセカンド殿下。この方たちには君主には相応しく無いものがあります。羞恥心です」
「……それはあった方がいいんじゃないのか?君主が恥知らずだったら、国の威信にかかわるんじゃ……」
珍しく王太子がまともな考察をしているわ。
「そこが認識が違われているのです。お聞きします。他の国の君主は思慮深く賢明ですか?」
「……えっ違うの?」
王子が素に戻ったまま戻らない。
「我がビカム・ア・ノベリスト国はテンプレという法に基づき、秩序ある社会を築いております。これは建国したジャパニーズ神が、因果応報と予定調和を尊ぶからだと伝承されております」
周囲を見渡すと、会場中の皆が頷いた。
「しかし他国は違います。例えばクラッシック・ドラマ国のロミオ王子は17歳で敵陣営のジュリエットという13歳の姫を見染め、厚顔にも求婚したそうです。ジュリエットも従妹を殺したロミオ王子に、復讐を考えようともせず駆け落ちの計画を立てたそうです」
「とりあえずひとつだけ聞きたい!17歳の青年が13歳の少女に愛を告白ってどういうこと?」
一番のツッコミどころを的確にツイてきた。スルーする事にした。
「またサウザンド・アンド・ワンナイトズ国の王は毎夜、女を呼びつけ殺害をする非道を行いつつも誰も諫めようともしなかったそうです。現在の王妃は呼ばれるたびに面白い話をしなんとか生きながらえたそうです。王が改心するまでに千日かかったそうです」
「えっそんなに面白いお話なら僕も聞きたい」
「書籍でまとめられておりますので、後ほどお届けします」
「わあ、ありがとう……じゃなくて!王妃って事は自分を殺そうとした狂王と結婚したの!?」
「ええ、結婚の馴れ初めを書いたのが先ほど述べた書籍ですから。また、ジャパニーズ・ミソロジー国では弟の所業を嘆き、女王が引きこもったそうです。それを政務が滞るからと無理やり力自慢が部屋から引きずり出したと聞きました。しかも、悩む彼女の扉の前で宴会を繰り広げ、扉がわずかでも開くのを周到に待ち構えていたそうです。誰一人として孤高の女王の心情を思いやる者はいなかったと聞き及んでおります」
「弟の所業を嘆いてか……僕も馬鹿をやらかしているから、弟には迷惑ばかりかけて……」
「神殿で脱糞したそうです」
「ごめん!さすがの僕でもそれはしたことない!!」
「このように他国では、わが国の倫理では計り知れない君主の所業がまかり通っています。正直に言ってついていけません。そのため対等に渡り合うために、非常識……っではなく、規格外の国王が相応しいのです。しかし、現在の国王には荷が重すぎました。そのためファースト王子の母君、現王妃の助力を仰ぐ事にしたそうです。当時、婚約者だった側妃様も同意の元です」
むしろ、国王より側妃様の方が熱心だったと当時を知る母から聞いた。「侯爵令嬢から王妃になる承諾を得られなければ。王太子との婚約は破棄します!」と、周囲に宣言してたと……
「さっきの非常識って箇所は、言い直す意味が無いんじゃないか?」
あっ流してほしいところ、気がついちゃった。
どうしよう。窓ガラスを白馬でぶち破るような王子が、普通のツッコミをしてくるなんて。なんとか元に戻って貰わなきゃ。
わたくしは無理やり話題を変えることにした。
「でも、良かったですわ。ようやくファースト王子に相応しい婚約者が現れたようですから」
察したアクトレス令嬢が慌てて発言をした。
「私との婚約はあくまで虚言ですよ」
わたくしは彼女に諭すように穏やかな口調で問うた。
「あなたはわたくしに王子が卒業パーティで婚約破棄をしようとすると、事前に忠告をくれた。それはなぜ?」
「えっ何故って……」
「もしかしたら、わたくしが王子の計画を阻止していたかもしれないのに」
「それが、私の望みでしたから……」
「そう、あなたは王子の無謀な計画を止めたかったのよね。でも、だったらどうしてわたくしが何ら対策を取ろうとしなかったのに、あなたは逃げなかったの?あなたも王子の共犯と見られ処罰される可能性が高かったのに。どうして自分の危険を顧みずに王子の計画に協力したの?」
「王子にも聞きたいわ。どうして彼女に協力を頼もうとしたのですか?なぜ自分の計画をありのままに打ち明けたのですか?」
戸惑うファースト王子。
「……それは……虚言で愛をささやくのは不誠実だと思ったから……」
「『彼女には本当の自分の想いを知ってて欲しかった』からですよね」
身分ばかりを忖度され、優秀な義弟と自らを比べる嫌悪に陥る日々。鬱屈しながら過ごす学園生活で出会った男爵の愛人の子。市井で育ったにもかかわらず、実母の死をきっかけに本宅に引き取られた彼女。慣れない貴族生活に戸惑いながらも、必死に馴染もうとする彼女にファースト王子も惹かれ、声をかけたのだろう。そしてそんな王子にアクトレス令嬢も……
「ファースト王子、我がビカム・ア・ノベリスト国では卒業パーティーに窓ガラスを割って主賓が登場した前例は、ございませんでした。しかし、白馬に乗った王子がプロボーズするのは法典であるテンプレにかなっております。どうでしょう?」
いつもは鋼鉄メンタルの王子が信じらないぐらい顔を赤くしながら動揺した。そして意を決したように彼女を見つめ跪こうとした。
皆がテンプレを期待する中、王子からの愛の告白を止めたのはアクトレス令嬢だった。
「わたしに王太子妃なんて務まるはずがありません!!わたしは何も出来ない元平民です。いまの公爵令嬢のように公の場で堂々と王子を諫めるなんてことも……」
泣きそうな顔をしながら言うアクトレス令嬢。やはり彼女も本気で王子を好きなようだ。だったら覚悟を決めて貰わなきゃ。婚約破棄を申し出た王子と原因となった令嬢には『ざまあ』という試練が与えられるのが、この国のテンプレなのだから。
彼女を落ち着かせるために言った。
「あのね、一般的にツッコミよりボケの方が難しいのよ」
「はっ???」
戸惑う彼女。我に返らないようにと、ここぞとばかりに畳みかける。
「常識を持つ人間にも、ツッコミは出来るの。まだ自分は常識側の人間だと言い訳できるから」
「えーっと……」
「わたくしの事を堂々としていると言ってくれたけど、実は虚勢で持ちこたえているの。足はガクガクしているし、背中に冷や汗をかいているし。これが終わったら胃薬を飲もうと思っているわ」
「えーっと……」
「あなたはファースト王子の相方を務められたのよ。才能があるわ」
「わたしにも無理です!」
ようやく我に返った彼女は、当然のごとく拒否してきた。聞こえない事にした。今までの経験からわたくしはスルースキルにだけは自信がある。
「さっそく次の君主会議、ファースト王子に同行してあげてね」
とにかく押し付け先が見つかって良かった。
隣でセカンド王子も安堵している。体調不良を理由に同行を断った罪悪感から解放されたらしい。視線が合うと、途端に顔を青ざめ胃を抑えた。わかっているわよ。責めてないから。常備している胃薬、この騒ぎが一段落ついたら部屋に届けるから!
「でも私は儀礼的なことについても何もわかりません!」
必死に抵抗を見せるアクトレス令嬢。気の毒だとは思うけど、せっかくの逸材を逃すわけにはいかない。
「大丈夫。儀礼や作法なんて些細なことだわ。あの、変わり者集団の会話を聞き流すだけでいいのよ。見ざる聞かざるの精神でスルーすれば……」
「なにひとつ安心できません!」
ツッコミが鋭くなってきたわ。ボケとツッコミが両方できる天賦の才。まさしく次期正妃に相応しい。
「大丈夫。皆さん変わってるけどいい人たちよ。たとえばね、フェアリー・テイル国の女王様。いつも控室で鏡にブツブツと問いかけているから、ちょっと近寄りがたかったの。でも前回お会いしたときに林檎を差し入れて下さったの。『あなた、美人だからぜひ召し上がって欲しいわ』と仰って。胃の調子が悪いからと断ったら表情を険しくされていたから、あなたはぜひ食べて上げてね」
「その林檎、絶対に口にしてはいけない気がヒシヒシとします!!」
なぜか、絶叫する男爵令嬢。おかしいわ、安心してもらおうと思ったのに。
「そろそろお話は終わったようですかな」
笑顔の事務長が会話に入ってきた。隣で青い顔をした学園長が震えている。
「それでは今度は殿下が割られたガラスの賠償のお話をさせて頂きましょう。殿下が破壊されたホールの大ガラス窓は、国外の最新技術も取り入れた貴重なものでしてね。ちょうど卒業パーティに国王も参加されていたのでお話したところ、王子の食費を削ってでも弁償すると仰って頂きました」
えっ国王陛下も会場にいらしていたの?存在感が無いから気が付かなかった。よくみると青ざめている学園長の隣で同じように震えているのが陛下だった。事務長からはお話ではなく脅しを受けていたのだろう。
「そんなー、食費を削るのはあんまりだ~」
「でっ殿下!世界君主会議で隣の女王様と親しくなれたら、頂いた林檎を差し上げますから!」
「それっ絶対に食べたらダメな奴だろ!」
あの王子がツッコミを完全にマスターした!婚約破棄の時に白馬で窓ガラスをぶち破り会場入り、とボケどころしかなかった殿下が!
ファースト王子の目覚ましい成長と、彼の隠れていた才能を引き出したアクトレス男爵令嬢。
国の明るい未来を感じられる恋人達の語らいに、ようやく私も胃薬を手放せると安堵した。
「こんなはずじゃなかったー!」
「破滅フラグを折るはずだったのに~」
手を取り合い、名画のような表情でデスボで叫びを上げる王子と桃色の髪の彼女。シャンデリアに照らされた二人に、セカンド王子を始めとする会場中の皆が拍手喝采を送る。
あっ事務長だけは額に青筋立てて怒っている……恐る恐る振り向くと、ファースト王子の愛馬が会場の隅で高価なカーテンを噛み千切って遊んでいた……
スルーした!!!!
これはざまあ小説です。異論は認めません(`・ω・´)
補足(蛇足?)の設定紹介
クラッシック・ドラマ国のロミオ王子とジュリエット姫は古典劇のロミオとジュリエット。
サウザンド・アンド・ワンナイトズ国の王と王妃は千夜一夜物語のシャハリヤール王とシェエラザード。
ジャパニーズミソロジー国の女王と弟は古事記のアマテラスとスサノオ。
フェアリーテイル国の女王は童話の白雪姫の継母女王。
ビカム・ア・ノベリスト国は小説家になろうの世界です。
書いてて楽しかったです。
それでは次作でお会いできるのを楽しみにしております。(^O^)/