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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪物の卵

作者:

お昼休み。生物部の僕は、いつものように花瓶の水を換えていた。


教室もいつもと変わらない喧騒だ。


いや、梅雨時で外に出られないのでいつも以上かもしれない。


僕が最後の花瓶を持って教室に入ると、箒と雑巾で野球をしていたがたいのいい男子生徒が僕にぶつかった。


僕にぶつかったのだ。僕は動いていなかったし、なんならその男子生徒は視界の外からぶつかってきた。


だが。運悪く。目の前にいた女子生徒に水をかけた形になってしまった。


水をかぶった女子生徒のシャツはしっとりと肌に張り付き、ブラジャーの色が透けて露わになる。その表情は今にも泣きだしそうで、一応事故であっても加害者の僕には見るに堪えないものだった。


「あ、ごめっ」


人間には2種類いるらしい。反射的に謝る僕のような誠実な人間と、泣き出す寸前の彼女を想うあまり人を殴る野蛮人だ。


頭蓋骨に衝撃が走り、気付けば僕はいくつかの机を巻き込みながら床に倒れ込んでいた。


遅れて徐々に頬が熱を帯び始め、殴られたのだと理解する。


空手部がむやみやたらに人を殴るな。


「先生!先生!飯塚君が松永さんに水かけた!早く!」


そこから先はよく覚えていない。


殴られた衝撃で床に這っているうちに、あれよあれよと3ヶ月の停学処分になった。


あれは事故で僕は悪くないという気持ちを抱えながらも、してしまった事実に関しての償いとしてそれを受け入れた。



◇◆◇◆◇◆



9月。復帰した僕の机は教室には無かった。


廊下で誰かとすれ違うたび、まるで挨拶のように「死ね」と言われた。


別のクラスの顔も名前も知らないやつも、まるで言語の意味が変わったかのように平然と悪意をぶつけてくる。


ボーっとしていれば、どこからともなく見ず知らずの生徒に殴られる。


無秩序な世界へのささやかな反抗として僕は次第に授業をサボるようになった。


最初のうちは仮病を使って保健室にいた。


だが、保健室は生徒も利用するので安全では無くてすぐに場所を変えた。


人間の適応力というのはすごいもので、トイレの個室で時間を潰すのにも次第に慣れていくものだ。


その虚しさでふと死にたくなった。


死にたいというのはここのところずっと思ってはいたが、行動したのはほんの気まぐれだった。


階段を昇る。昇る。昇る。


どうせ施錠されているだろう。それを見て踵を返そう。


そう思っていたが、予想とは裏腹に、その重い鉄の扉は開いていた。


『やあ!兄弟!』

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