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2話

 私立青豊高校――蒼の通う高校である。蒼の家から電車で20分。駅から徒歩5分の場所に位置している。アクセスがしやすく、また大学への進学実績もあり中学生から人気のそこそこある高校である。


 今日は4月初め。始業式の日である。既にクラス発表や担任の発表等は終えているため胸の躍るイベントごとは特に無い。体育館で先生方のお話を聞き終わると各ホームルーム教室へと戻る。

 「おーい!柳葉ァ!」

 蒼は聞き慣れた声を耳にして、声の主を見る。眼鏡をくいっとしながら手を少し挙げて近寄ってくる姿は春休み前に見た物と寸分違わぬ物である。少しふくよかな体型をしており片手にはスマホが握りしめられている。


 庄司豪太。EOFに蒼を誘った張本人である。昔からゲーム好きで様々なタイトルに手を出している。蒼とは小学校時代からの友人である。

 「おぉ1ヶ月ぶりだな。元気してたか?」

 「いや、EOFのボイチャでやりとりしていたではないか」

 何を言っているんだと言いたげに豪太は大きな体でため息をつく。

 「ん?まあそれもそうだな」

 「まあ、ともかく我が宿命のライバルも元気そうでなによりである!わっはははは!」

 「宿命とか臭いこと大きな声で言わない方が良くないか?変なやつだと思われるぞ?」

 「大丈夫だ!他のメンツもおしゃべりに夢中だからな!」


 豪太に言われて蒼は周りを見渡す。豪太の言うとおり周りもおしゃべりに夢中で、自分の話し相手以外に意識は向いていない。豪太と蒼のように休み開けと言うこともあって、友人との積もる話もあるだろう。

 しかし、一瞬だけ空気が変わる様な気がした。いや、明らかに変わった。その原因は今ドアを開けてこの教室に入ってきた人物のせいだろう。秋月凜。青豊高校生徒会副会長である。

 「相変わらずすげえ人気だな秋月は」

 秋月が席に着いた瞬間、仲の良い友達数人が集まり楽しげに談笑し始めた。それだけで無く、話しをしていた蒼のクラスメートも秋月の方が気になって話に集中出来ていない。…特に男子が。


 「わしらは昔から分かっておろうに」

 「それもそうだなぁ」

 ポニーテールにまとめられた黒髪は綺麗になびき、透き通る様な肌と均整の取れた肢体。まさに絵に描いたような美少女である。性格も素晴らしく、クールな口調でありながら優しいそんな少女である。彼女のそんな性格を知っているのは二人を含めてごく少数であろう。

 彼女は蒼と豪太と同じ小学校中学校の出身である。恐らくこのクラスにいる人間の中では蒼と豪太と凜は一番お互いの知っている仲であり、仲も良いだろう。いや、それでは若干語弊がある。仲が良かった、だ。


 「ふむう…前々から気になっていたが」

 何か疑問に思ったのだろうか、豪太は続ける。

 「凜ちゃんと柳葉が話してるとこ高校に入ってから見てないが…気のせいか?」

 「気のせいだ」

 蒼は即答した。嘘はついていない。

 「そうか」

 豪太は蒼の答え方に若干違和感を感じながらも、それ以上は追及するつもりは無かった。

 「とにかくだっ!今日もEOFやるぞ!」

 「オーケイ。帰ったら連絡するわ」

 蒼の返事を聞いて満足げな顔をして豪太は自分の席へと帰って行った。


 「嘘はついてないよな…」


 苦笑しながら自嘲気味に蒼はつぶやいた。



 「柳葉、右に一枚行ったぞ」

 「オーケイ…」

 蒼の自室には、蒼一人の声しか響いていない。しかし、蒼は会話をしている。ヘッドセット越しに聞こえる声の主は豪太である。

 学校での約束通りEOFをプレイしているのである。

 「あと一人は…」

 「こっちだな」

 最後の一人、木裏に隠れている敵を豪太が打ち抜き勝利となった。

 「ナイスー」

 「GG」

 「ふむ、やはり柳葉は強いな!我がコンビなら敵が四人でも大丈夫だな!」

 「まあ、確かにそうかもな豪太も強いしな」


EOFには様々なモードがあり、Solo、Duo、Squadがある。今二人が行っていたモードはSquad、四人一組のチームで行うのが基本である。ただし、一人から参加出来るため二人の様に四人いなくても行うことが出来る。

 「そうであろうそうであろう…まあ、FFIのメンバーには敵わぬがな」

 「そうかもなぁ」

 リザルトには『ごごごりご』と『FFI・Kwss』という文字が躍っている。FFI・Kwss…EOF世界大会における日本代表チームの一人にして、界隈最強のアタッカーと呼ばれた選手。それが、蒼の正体である。

 「やはりアマチュア最強、いや日本最強はだてじゃないな!」

 「まあ、少し弱くなってきてはいるけどね」

 蒼は苦笑いをしながらそう呟く。

 「タイマンしたら今ならやり返せるかもな」

 「おいおい…」


 練習と言うことで、蒼と豪太はよく一対一の対決をしていた。元はと言えば負けっぱなしの蒼が勝てるようになり始めたのは蒼が始めてから6ヶ月。メキメキと上達していき抜かすまでになった。

 「今でも覚えてるよ。初めて勝ったときめっちゃ嬉しかったわー…そんでさー、俺の方が勝つことが増えてきたときにさ豪太、回線や!回線が良いからだ!とか言い始めてさ」

 「やめろぉ!思い出させるなあ!」

 豪太はいきり立って反論…というかお願いをしている。声しか聞こえていないが、恐らく肩をワナワナと震わせている事であろう。

 「ただ、びっくりしたよその辺りでまさか日本一の決める大会に誘われるとは思わなかったからな」

 「そうだな!はっはっは!」

 「豪太がもう少し早めに言ってくれれば驚かなかったんだけどなあ」

 「スマンスマン。でも本当のことを言ったら俺と一緒にはやらんでしょ?そしたら、お前をボコボコに出来ないでは無いかぁ!!!!」

 「ひでえ!」


 豪太は蒼を誘うとき自分自身の実力を始めたてで下手と説明していた。しかしこれは真っ赤な嘘である。豪太はEOF界隈では猛者中の猛者として名を馳せている程の実力者であった。これに気付かなかったのは、単に豪太がごまかすのが上手いというよりも、蒼の熱意も関係していた。

 

EOFはスマートフォン端末で行う事ができ、さらに無料でダウンロードも出来るということもあり世界で人気のあるゲームの一つである。何が言いたいかというと、即ち、蒼のクラスメートや他の友人もプレイしている為、豪太がどれだけ上手いか普通なら気がつくはずである。しかし、豪太に煽られていた蒼はそのようなこともお構いなしに強くなろうと思ってしまったのである。

 「ところでだ柳葉」

 「ん?」

 「FFIのメンバーとは連絡取ってるのか?」

 「うーんとねRinさん以外とは連絡取ってるかなあ…たまにだけど」

 「なるほどなあ、しかしもったいないのお…」

 「そうかもだけど、まあ俺はゲームは楽しくやりたいだけだからな。こうしてお前とか他の連中とやっているほうが良いんだ」

 「そう言ってくれるのは嬉しいが…」

 蒼は確かにゲームは好きだ。熱中する事に対してもおかしいとは思っていない。ただ、プロになりたいとかもっとスリリングにやり続けようとは思わなかったのである。

 「神経すり減るような熱い戦いも嫌いじゃ無いけどさやっぱり楽しくのんびりやりたいんだよね根本的には」

 「うむ、よく分かった。して、Rin殿とは何故連絡を取っていないのだ?」

 「実はな、少しトラブルがあったみたいでな」

 「トラブル?」

  

蒼のチーム離脱についてはチームの運営側とも円満にいき、メンバーとも良好な関係を築くことが出来た。しかしRinについてはそうは行かなかった模様である。


 「詳しくは分からないが、チーム離脱時に何かあったみたいで今は解決したみたいなんだがそこから連絡が取れなくなってね」

 「解決したならよいが…気になるのお」

 豪太が言うように蒼も気にはなっていた。FFIチームメンバーのなかで一番仲が良かったのも共にプレイした時間も長かった。だからなのか、息もピッタリだった。

 「なあ、どうにかして連絡は取れないのか?直接会うとか」

 「どうやって直接会うんだよ」

 「むむむ…」

 豪太はうなっているがすぐに一つの可能性を口にした。

 「Rin殿は我らの知っている凜ではないのか?彼女ならばいつでも会う事は出来るだろうに」

 秋月凜。二人の旧き友人と同一人物ならば学校なり何なりで事の真実を聞く事は可能であろう。ただ、彼女がRinである可能性はほぼ0であると蒼は言える。

 「豪太、ゲームのHNが本名とは限らないし何の手掛かりにもなる事は無い。俺よりも豪太の方がそれは分かるだろう?」

 「むう…」

 豪太が言っていることはかなり無理のある話である事は本人も自覚しているはずである。反論は特に出てこない。蒼が否定的な意見を出すのには大きな理由があった。

 「それに豪太は当然知らないだろうが、Rinさんは()だ」

 「そうだったのか…」

 蒼はRinと直接会ったことは無いが、声でのやり取りはしたことがある。若く良く通る溌剌とした声で同世代の男であると考えられる声出会ったし本人も蒼とタメであると発言していた。

 「ふむ。少し阿呆なことを言ったしまったな。申し訳ない柳葉」

 「いや、別に構わないよ。続きやるか」

 「そうだな!」

 豪太は楽しげに答えた。蒼も次の戦いに向けて気持ちを向けていく。しかし、心のどこかでRinがもし秋月凜であったなら…と考えていた。






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