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011 東の地より×その11

遺跡の事件から2日後、リシテア、ゼロ、ピクスの3人は街道で獣車を待っていた。といっても乗るのはピクスのみでリシテアとゼロは見送りに来ているだけなのだが。


「どこか行くあてはあるのか?」


ゼロがピクスに聞くとそうですねとピクスは一度考えると、


「とりあえず大きい街へ。そこで仕事も探して、何とか生きていこうと思っています。....ちゃんとした墓も建てたいですし。」


そう言うとピクスは腕に抱えた箱を優しく撫でる。


二日前、リシテアとゼロがタルシンの首級を取った後にピクスの所へ戻るとルピアはすでに事切れていた。ピクスは最後にルピアと少しだけ会話が出来たことを二人に話すと、残ったルピアのいくらかの遺体を外へと持ち出し、術式で火葬にした。溶けてしまった金属の一部などの中から何とか残った骨格や灰を集めて箱にまとめたのである。


「あの子、泣かなかったね。」


終わった後にリシテアは小声でゼロに言う。人が死ぬ時なんて大概そんなものだとゼロは返した。ピクスがそれまで辿ってきた旅路、姉に向けての思い、そしてその内側に秘めた多くの気持ちがまだピクスの中で回っているのだと。感情が出てくるのはもう少し落ち着いてからで、その時までの心の準備のために今はそっとしておけと、そうゼロはリシテアに言い含めた。


次の日リシテア達は集落の駐在兵に一連の出来事を話し、捕虜として捕らえた兵やタルシンの助手達を引き渡す。全員を捕らえることは叶わず、ほとんどの兵は何処かへ逃走したことも説明した。


「殺した分に関しては後で何かしら話が来るかもしれんな。」


「やむを得ずでしょ?その辺りは龍津軍が何とかしてくれるんじゃない?」


リシテアは仕方ないよとゼロに言う。ゼロはそれよりも、と強気にリシテアに返した。


「お前、今回森で暴れた時に作った像。あれは2度と作るな。」


リシテアは何の事?と惚けた様子で返す。


「あの白鳥っぽいやつだ。あれは危険だ。戦時協定に抵触する恐れがある。」


戦時協定とは、およそこのヒノエで戦闘行為をする際に定められたルールのことである。ゼロが言っているのはその中にある敵兵に対する必要以上の拷問および姦通の項目の部分である。

今回リシテアが用意した自動戦闘用の像『スワン先生』は基本プログラムとして敵の殺傷行為を禁止していた。代わりに搭載されていたのが『合体』と呼ばれる男色行為に近いことを行うプログラムで、股関に付いている鳥の頭で相手の菊座を狙いぶち抜く戦闘方法である。

勿論最初の一撃で無力化出来、かつスワン先生がその兵に手を出していなければ問題はない。しかしスワン先生がその後戦意を失った兵を何度も襲い、もとい関係を持ち、延べ24人が彼の餌食になったのである。これを手伝ったのがもう一体の像、『タイガー2号』。こちらもおもに殺傷行為は禁止していたものの、その圧倒する強さによって兵達を片っ端から殴り倒し、その殴られ動けなくなった兵をスワン先生が襲う。まさしくこの2体のチームワークによって森は一面地獄絵図となったのである。

リシテアたちがタルシンを倒した半日後に様子を見に行った時、森の中ではすでに下半身を剥かれた兵や下半身に怪我を負った兵が所々で倒れており、一仕事終えたタイガー2号は胡座をかいて瞑想、スワン先生は物好きになってしまった数人と楽園(彼らにとって)を作り上げていた。


「やっぱり、先端に媚薬盛ったのがいけなかったかな。注入式の。」


ゼロはうげっという顔をすると一度頭を抱え、


「絶対に!2度と!やるな!....わかったな?」


「....はい。」


顔を近づけながら圧迫するようにリシテアに言うのだった。


そんなこんなで遺跡での一通りの後片付けを終えた3人は今後どうするかを話し合った。当初リシテアはピクスに一緒に行こうと説得したが、ピクスはこれを断った。二人の旅を邪魔したら悪いから、とのことだった。

ピクスはリシテアたちが外で諸々片付けていた時、遺跡の中を色々と歩き回っていた。その際に犠牲になった人たちの遺品が保管されていた部屋を見つけ、姉の着ていた服や装飾品、手紙等を回収したのだと言う。


「よくわざわざ取っておいたもんだな。」


「はい、保管していた方がきちんと整理してくれてたみたいで....」


それぞれ1人ごとに箱に分けられていたようで、名前まできっちり書かれていたのだという。おかげでピクスは対した苦労もすることもなく姉の形見を回収することができたのである。



獣車がゆっくりと近づいて来るのが見える。


「二人はこれからどうするんですか?」


ピクスが荷物の準備をしつつ二人に尋ねる。ゼロは頭一つ分の大きさのあるケースを持ち上げる。


「まずはこいつを金に変える。集落の市のほうで待ち合わせることになってるんでな。その後は、まあのんびり帰るさ。」


「え、帰るの遅くなるの?」


リシテアがええっと驚く。ゼロはそこに軽めのチョップでリシテアの頭を叩いた。


「元はと言えば、お前が変な色気起こすからこんなことになったんだろうが。あそこで諦めていればそのまま普通に帰れたんだ。」


「うう....。しどい....。」


ピクスはその様子に笑いながらもでも、と続ける。


「あそこでリシテアさんが遺跡を諦めていたら、僕たちは出会えませんでした。姉の最後を看取ることもできなかったでしょう。」


「....まあな。」


ゼロは頭をかき、申し訳なさそうに返す。リシテアはそれを見て、にししと笑うのだった。


「本当にありがとう....ありがとうございました!」


獣車が目の前に来る。ピクスは荷物を持って荷台に続く階段へ上がっていく。


「ピクス。」


ゼロがピクスに呼びかけると袋と手紙のようなものを渡した。


「これは?」


「路銀とあと紹介状、関所越えのパスポートも入ってる。路銀はそれだけあればトウオウ領のナザイまで行ける。パスポートは事情を話してトウオウ領の関所の兵に渡しておいてくれ。紹介状もその時に。龍津軍の本部に案内するようにそこに書いてある。職の斡旋くらいはしてくれるはずだ。」


「こんな....貰えないですよ!」


ピクスが拒否しようとしたが、リシテアは二人で決めたんだよとピクスに言う。


「先立つモノは持っといたほうが良いってことだ。」


ヘイムダルの不正を暴くきっかけとなったこと。全員ではないとはいえ、兵達の捕縛できたこと。今回駐在兵の方から報奨を受けるかと聞かれた時にピクスは辞退したのである。そして当のゼロたちも別の所から受けた依頼での行為だったので丁重に断りを入れた。これは二人の行った行為自体が報奨を貰うことで後々問題になることを防ぐためでもある。


「オレたちのことは心配するな。帰る分の路銀は十分にあるからな。」


「身体に気をつけてね。ピクスくん。」


「はい、....ありがとうございます....。」


ピクスは頭を深々と下げるとゆっくりと獣車に登り、席に座った。リシテアは遠ざかって行く獣車に手を振り続け、ゼロはそれを腕組みしながら黙って見送っていた。ピクスはぽろぽろ泣きながら、窓の外から二人の姿が見えなくなるまでずっと見ていた。心の中で何度も感謝を述べて、いつかまた会えた時には必ずこの恩を返すと、そっと心に誓うのだった。


「行っちゃった。」


「行ったな。」


二人はそのまま荷物を持って集落の中へ降りていった。昼頃まで開かれている市に行くためである。そこに今回の依頼主が待っているというのだ。


太陽が登りきった昼下り、広場に置かれた椅子の上で待つ1人の男がいた。頭は完全に剃っており、服はヒラヒラした大陸の坊主の着るような服装をしており、その肌は人とは思えないほど白く、血の気がなかった。ただ一つ目尻に入れた赤い化粧と額の目のような入れ墨がこの者を常人ではないと思わせていた。


「カイロスさまー、飲み物持ってきましたよー。」


「ああ、ピアニーさん。ありがとうございます。ゼンジさんはまだでしたか?」


「猪肉の炙り焼きの列に並んでましたよ。あと....15分くらい?」


「ああ、そうですか。しかし随分人が多いですねえ。」


そうですねと返したピアニーという女性。艶やかな服装の上に長めの外套をかけ、髪の毛を後ろでまとめた目立つ格好をしていた。脚部、おそらくはストッキングのようなものだろうがそこにいくつもの複雑な紋様が描かれていた。おそらくは術士だろうと思われる。

その格好は周囲の者から見れば物珍しく、道行く人々からジロジロと見られていた。同時に近寄りがたい雰囲気もあるらしく誰もがピアニーとカイロスの所には寄ってこない。


「それも術式ですか?」


「ええ、まあ。自分の好きな格好はしたいですが、面倒事は御免なので。」


「オシャレさんですねえ。素敵です。....あ、飲み物頂きますね。」


「どうぞ。」


カイロスは飲み物に口をつけると、美味しいですねこれとピアニーに言うと、これは冷やし飴と呼ばれるらしいですよとカイロスに教えた。


「後でもう一杯買って来ようかな。」


「私がもう一回行ってきます。カイロス様はここで....あら?」


遠くから男女二人が歩いてくる。真っ直ぐに他に目もくれず....は少年のほうだけで、少女のほうはもの珍しいのか周りをキョロキョロしている。そして少年の手には何かを仕舞うようなケースが吊るされている。


「カイロスさんですか?」


少年....ゼロが聞くとそうですよとカイロスは答える。


「はじめましてゼロさん、そしてリシテアさん。私がカイロスです。よろしくおねがいします。」


通信で聞いた胡散臭い声がさらにクリアになって、二人の目の前に立っていた。

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