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008 東の地より×その8

遺跡上層、かつて運用試験場と呼ばれたこの部屋はかなりの広さと高さを誇り、観覧者は安全な位置から全てを見渡すことが出来る、まさしく名前通りの部屋である。

そして今、部屋を振動させるような音量でタルシンの不気味な声が響く。


「私はね、ゼロくん。ここに来るまで多くの命に助けて貰って来た。その中にモルモット....というものがある。実験用の多くの事を試すのに適した齧歯類....まあネズミの仲間だね。」


「ほう。それがどうした?」


ゼロは余裕綽々で馬鹿にした意味を込めて返した。


「わからないかね?君たちは実験動物、私のモルモットだと言うことが。これから君たちは私の手の上で、私に試されながら、私の思うように、生きたり死んだりすることになるのだよ。その2体は小手調べだ。ここでこんなものにやられてしまうようならモルモットとしてはつまらない。さあ、楽しませてくれるね?」


「....ピクス、7番ケースから5枚、2枚はオレに、3枚は自分に。いいか?」


「はい。」


ピクスはすぐにケースから術布をとりだすと言われたように2枚をゼロに投げる。術布はゼロの周りに光の帯を作ると一気に燃え、ゼロの周囲に護りの膜を作った。


「お前はそのまま入口まで後退してろ。追加の援護は念信で教える。」


「....。」


ピクスは一度下を向いた後、真剣な目でゼロのほうを見た。ゼロはそれに答えるように視線を返す。


「....わかったな?」


「....はい。」


ピクスはそのまま入口に走っていく。去り際に「死なないでください」と一言小さく零して。しかし入口はすでに閉まっておりピクスは閉まった扉の前で待機することになった。


「一応言っとくが、この部屋からは出ることはできんぞ?」


「何で出ると思っているんだ?」


ゼロは持っていた刀を頭上に掲げるとその刀は粒子になってゼロの両腕に消えていった。代わりに両手に粒子から形作られた戦斧が握られていた。


「武器....ほう、面白い力を使う。どういうものか説明してはもらえんか?」


「だぁーれが教えるか。バぁーか。」


「....くくくくくっはははっははっははははは!その言葉!後悔するなよ!!」


タルシンは先程出現させた無人の装甲殻をゼロに向かって出撃させる。高速で移動するそれは足による動きではなく、その足裏に仕込まれた駆動による接地車輪走行だった。


(へえ、普通に走るだけが能じゃなかったってことか。)


二足歩行型の砲台である装甲殻は本来、森林及び山岳地帯等での悪路走行を目的として作られた機械である。

その関節可動による動きの柔軟性と体重移動のバランスに優れるが、車輪による駆動に関しては整備性の悪さと特異な操作感は、扱う側としては少々問題のあるものだった。これを緩和するためのさらなる改良として、足裏に追加された引き出し式の走行車輪が加えられる。

新たな構造になったことで整備性に関しては若干ハードルは上がった。しかし移動の際に姿勢をほぼ変えずに直感で操作出来る点は搭乗者にとっては扱いやすく、これは良い改良であると好評を博した。

....と言ってもそれは過去の話で、数々の遺跡に残るデータベースの中での話である。しかし、その情報から多くの機体が生産され、何千年と経ったこの時代においても現行遺物として稼働しているという軌跡。それは生身で対峙する者にとっては依然変わらぬ脅威として立ち塞がるのであった。


装甲殻は一気に距離を詰めるとゼロを牽制しながら機体横に装着されたブレードでの接近戦を仕掛けてくる。ゼロは一つ一つの攻撃を確認しながら回避し、内1体の脚部に斧での一撃を与えた。

その装甲殻はバランスを崩してすっ転んだが、すぐに体制を立て直しバック走行をしながらゼロに小型の電磁砲レールガンによる追撃を行う。

斧を盾にしてそれを処理しながらもう一体接近してきた装甲殻のブレードを回避する。こちらは今度は足首、人で言うつま先部分を狙って斧を振り下ろした。しかしこれは足を瞬時に引かれたことにより回避されてしまう。

距離を取った2体の装甲殻は再度仕掛けるため電磁砲レールガンを連射しながら一気に詰めてきた。ゼロは横に逃げるように走り、射線から離脱すると斧の一本を仕舞い機械式の弩を出し、そのまま矢を立て続けに装甲殻本体、そこから接近する途中の道筋目掛けて4発撃ち込んだ。


「かっははははははははは!そんなものでどうしようというのだ!」


矢の一本は命中したが装甲に阻まれ明後日の方角へ、地面に放たれた分も跳ね返り別の方向へ飛んでいった。これは床自体が機械走行に耐えられるだけあって相当の硬さを誇るためである。


無論、無闇にやっていたわけではなく、ゼロが行っていたのは大まかなデータ取りであった。今持っている武器でどの程度までダメージを与えられるか、この戦闘場所ではどう戦うのが一番良いのか、今自分の使える手段の最適解を探しているのだ。

そしてそこから繋がる手も同時に打っている。

ゼロは今度は弩を仕舞うと再度斧を出現させ持ち替えた。

その瞬間である。接近してきた先頭の装甲殻の足元がいきなり爆発した。タルシンは何が起こったのだと窓の外で瞳孔が開くほどの表情になる。


「なあ....!?」


タルシンの位置からだと見辛かったが、爆発したのは弩の矢。予め矢に巻きつけておいた術布が爆発したのである。爆発により装甲殻は吹っ飛びゼロの横側に頭から突っ込んで静止。すかさずゼロは無人だがコクピットにあたる位置に斧を振り下ろして破壊した。

2体めは上手いこと爆風を回避したが今度は煙による視界不良によりゼロを見失ってしまう。一度静止すると改めて周囲をスキャニングし、ゼロの姿を探す....が、それは叶わなかった。

投げられた斧がコクピットにぶっ刺さったのである。そしてそれは同時に爆発し、そのまま沈黙した。

煙の中から出たゼロはタルシンから見える位置に移動して視線を送る。

武器に術布をつけての攻撃にピクスに付けてもらった防護用の術布。使える手段を最大限かつ最低限の力で勝つ。これがこの場におけるゼロの戦闘思考の構造であり、傭兵としての実力であった。


「お次は何かな?」


ゼロはタルシンに向かって「とっとと来い」と指で挑発する。

タルシンは顔にさらに不気味な笑みを浮かべ、動揺とも怒りとも取れる感情でゼロを見つめていた。


「くうふふふふふ....そうかぁ、加減はいらぬかぁ!!」


タルシンは手元にあったレバーを引き、研究室からの呼び出しラインを確保。その後例の機体を出撃用の管に移し発射する。機体は床に開いた穴から充填用のチューブだらけでゼロの前に出現する。

タルシンの不気味な笑いが響き渡る。


「紹介しよう。彼女はマリオン。私の最高傑作だ!」


それは人の形をしていた。体型で云えば女性のようにも見えた。しかしそのフォルムは全身に装甲のような鎧、頭にも額当てがあり、そこから熱放出用のラジエータが耳のように付いている。脚に関しては装甲殻のモノを強化改修したものらしく両腕は右手に接近戦用のブレードと左には大筒が付いており、これは中遠距離用のものであるとゼロは予想した。

....そしてそれは当然ピクスの視界にも入ってくる。


「姉さん....。」


瞬きもしない無表情の人工皮膚で作られた顔。その雛型は間違いなくピクスの姉、ルピアにそっくりであった。


「マジ....なのか?」


ゼロはピクスに確認を取る。しかし初見で感情を揺さぶられたピクスは動揺し、返事が出来ない。


「姉さん....間違いない....姉さん....姉さんーーーーーー!!」


ズンッという音ともに沈黙が戻る。


「え....?」


ピクスのすぐ横に何かが撃ち込まれた。それはルピス、現マリオンの手に装備された大筒から発射されたものだった。一瞬で壁は融解し、赤熱化した金属が穴になってそこに出来上がっていた。


「嘘....ウソだろ?姉さん....。」


「ピクス!逃げろ!」


ゼロの叫び声が放たれる。ピクスには聞こえない。なぜ、なぜなんだとピクスは姉に聞くがその声もマリオンとして稼働する彼女の耳には届かなかった。


「マリオン、まずはその傭兵からだ。そして、次にその子供を、かつてのお前の弟を殺せ。絶望とともに。くくく....」


マリオンは電子音で一度鳴るとそのままゼロに向かって襲いかかった。

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