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悪魔だらけの探偵部  作者: 木板 実
第1章 会遇の毒殺
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第6話 答え合わせの器

 白澤くんの指示で、容疑者2人と被害者役の警官さんを事件発生時の各ポジションに座らせた。

「監視カメラの映像によると、3人はこの位置に座っていたはずですが、間違いありませんか?」

「ああ、もちろん・・」

 私から見て一番奥にいる鹿子さんが答える。

 この店にあるのは、2人用ソファが2つ向かい合わせに設置してある超無難(ぶなん)なテーブルだ。

 鹿子さんは、彼から見て左に壁がある所に座り、その正面に市原さんが座っている。そして市原さんの左隣に警官さんが座っている。

 つまり、被害者の小河さんは通路側に座っており、容疑者2人は壁側に座っていたということか。

「3人はそのままでお願いします。では改めて事件の概要も整理しながら説明しましょう。今日の15時43分頃、このテーブルで食事をっていた会社員の小河 夕さんが、水に混入していた塩素系漂白剤を誤飲していまい、中毒死しました」

 近くの壁掛け時計を見ると、ちょうど8時を示している。

 あれから4時間以上経ったのか・・。

「最初はコップにあらかじめ誤って付着していたものに気付かず水を注いで出した、という線も考えました。が・・あの速さで中毒に至らせるにはかなりの量が必要です。そして、大量に付着している漂白剤に店員さんが気付けないとは思えません。よって、私たちは意図的な殺人という線で捜査を行いました」

 まるで台本を持っているかのようにスラスラと説明する白澤くんはとてもさまになっていた。

 刑事さんがさっき言ったとおり、こういうことをたくさんしてきて慣れているのだろう。

「我々の考えが正しいとすると、犯行は誰にでも可能ですね。コップに漂白剤を入れるだけですから」

 確かに、漂白剤さえ準備しておけば隙を見て水に潜めるだけで後は勝手に飲むのを待てばいい。

「しかし、こうなると明らかにおかしなことが2つ生まれてきます」

『当たり前でしょ?』みたいなテンションで述べた彼に、その場にいる探偵部以外の人が眉をひそめた。無論私も例外ではない。

 おかしなこと?しかも2つも?

「まず、テーブルの上にあるものを見て下さい。この様子だと、まだサラダしか届いていないようですね。これは、裏を返せば『サラダが届くまで殺されなかった』ということです。当然、メニューを見るときや料理を待っているときなど、水を飲むタイミングなどいつでもあります。なのに、漂白剤を摂取しなかった・・飯間刑事、これが何を意味しているのか分かりますか?」

 急に振られた飯間刑事は、腕を組みながら考え込む素振そぶりを見せて、

「サラダが届いてから、水に漂白剤を混入したんだろう?」

 その刑事さんの意見に、全員が無言で賛成する。

 刑事さんの言い振りからして、既に警察はそこまで予想していたのだろう。

 しかし、白澤くんはフッと笑うと、

「残念ながら、それが犯人の狙いです。警察がそう推測すると、警察はサラダが届いた後しか考えなくなり、この犯人は容疑者から外れます」

 ・・・ん?どういうことだ?追いつけなくなってきた・・。

 そんな私の心の声が届いたのか、白澤くんは薄く笑ったまま、

「きっと今の説明を理解していない人もいると思います。ですがそれは、2つ目のおかしな点を説明すると納得して頂けるはずなので、ちょっと我慢してください」

 そう言われればしょうがない。おとなしく黙っていよう。

  他の人も同意見のようで、雰囲気が白澤くんに話を促す。

「2つ目のおかしな点は、容疑者2人の位置です。先程座って頂いたので分かると思いますが、2人とも被害者からみて右側に座っています。しかし、サラダがテーブルの中心、つまり被害者の右側にあったため、被害者は自然と《《コップを左側に置く》》ことになります。これだと、容疑者2人には届かない位置にコップを置くことになりますね」

 ふとテーブルの状態が脳裏に蘇る。

 中心に大皿のシーザーサラダがあり、3ヶ所にサラダが盛られている取り皿と箸があった。その3ヶ所とは、もちろんお客さん3人の目の前だ。

 たしかに中心からサラダを取っていたのだから、邪魔にならないようコップは左側に置いてしまうだろう。

「実際、監視カメラの映像を見たところ、コップが被害者の元に届いてから落ちて割れるまで、やはりコップは被害者の左側に置いてあり、容疑者2人は被害者のコップに触れるどころか近づきもしませんでした」

 え?ちょっと待って?ってことは・・

「つまり——この2人に犯行は不可能ってことか」

「はい。そういうことに・・」

「ええええ!?」

 犯人特定にあたって重要な前提をあっさり覆されて、誰よりも大きな声で驚いてしまう。

 思わず口を両手で覆うが、口からは疑問符が止め処なく溢れ出す。

「え?え?え?じゃあ何?容疑者いないの?迷宮入りなの?」

「お、落ち着いて。そんな訳ないですよ。ちゃんと犯人の目星はついています」

 白澤くんになだめられて、ふと緑橋さんの言葉が蘇る。

『あの2人はもう特定しているだろう』みたいなこと言ってた気がする。

 白澤くんは再び全員の方に向き直り「コホン」と1つき込むと、話を続ける。

「先程1つ目のおかしな点として、サラダが到着するまで殺害されなかった、という話をしましたね。私はそこから『被害者が水を飲むタイミングに何かある』と予想し、ここ2ヶ月の店の様子を確認しました。すると、被害者にある癖があることが判明しました。それは、被害者は『毎回必ずサラダが届いてから水を飲む』というものでした」

 変わった癖だと言わざるを得ない。そんなの意識して見ないと到底気付けない。

 そして同時に、また緑橋さんの言葉が脳内で再生される。

『部長たちが監視カメラの録画映像を見ているんです』

『その映像を見れば・・・犯人が判明するでしょうね』

 あれは最近よく来店していた被害者の映像を見ていたのか。

『毎回必ず』ということは、今日もそうだったと考えるのが自然だろう。

「また警察の調べで、被害者の飲んでいた水からカプセル剤の成分が検出されました。恐らく犯人はカプセルに漂白剤を入れ、それを水に投下したんでしょう。さて、そのカプセルにどんな意味があったのか分かりますか?」

「誤って手に漂白剤が付着するのを防ぐため、だな?ただファミレスにいるだけなのに、夏真っ只中の今日手袋をしているのは言うまでもなく違和感だから、容器に入れたってことか」

 白澤くんと刑事さんの語りが、徐々に空気を重くしていく。

 みんな感じているのだろう。この推理ショーが、確実に犯人特定に近づいていることに。

「毒物をカプセル状にした以上、犯人に必要なのは『カプセルが溶ける時間』です。もし被害者が水を飲む時、カプセルが見つかったら間違いなく殺害できませんからね。その時間を確保するために利用したのが『被害者の癖』です」

 いよいよ本格的に犯人を示す推理に入ったであろう白澤くんは、語りながら突然ゆっくり歩き出した。



 私の方へ。


「・・え?」

「被害者の例の癖を知っていた犯人は、カプセルを水に入れて被害者の元に届いてもサラダが着くまで水を飲まないことを当然予想できていました。そうなると犯人は、被害者のその癖を知ることが可能な人物。それは、最近よくこの店に被害者と来ていた鹿子さんか、ここ2ヶ月間被害者を観察する機会があった『この店の店員』の2択になります」

 ゆっくり、ペースを変えることなく私に向かって歩いてくる。

 って、それじゃ私も容疑者に含まれるってこと!?

「ただ、先程話した通り鹿子さんにはポジション的に犯行は不可能です。そうなると、容疑者になるのは店員の方のみ・・」

 ふと、私はあることに気づいた。

 そして---背筋が凍った。

「そして、今日いる店員さんの中で犯行が可能なのは・・」

 白澤くんは私の方向へ歩いていないのだ。

 正しくは《《私の後ろにいる人》》の方向へ歩いている。

「とある事情で今日唯一、被害者たちを接客して人物である・・」

 白澤くんが靴音を立てて止まる。

 犯人の前で。



「店員の・・小倉さん?」



 目を見開く、小倉さんの前で。

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