第5話 素人の推理
あの後、小倉さんと二手に分かれて袋を探した結果、それっぽいものを3つ見つけた。
「この中に当たりがあればいいけど・・」
もしこの中に無かったら、さっきまでの努力が報われない。ちなみに私は2つ見つけた。
「ありがとうございました。あとはこちらで調べます」
そう言って緑橋さんは3つの袋をまとめて大きなビニル袋に入れて持っていく。
そして1歩進んだところで足を止めて振り向いた。
「あ、そういえば。この後何もすることがないなら、事件が発生したテーブルに行ってみて下さい。飯間刑事や部長たちがいますので」
刑事さんと探偵部の人たち?何かするのかな?
「分かった、ありがとう!小倉さん行こう!」
私が笑顔で提案すると小倉さんは苦笑いで、
「あ、ああ、いいけど、邪魔にならないようにな?」
・・あまり乗り気じゃなさそう?
ただ、ここまで来たら犯人が誰なのか気になってしょうがない。小倉さんには申し訳ないが、少し付き合ってもらおう。
私は鹿子さんと市原さんのどちらが犯人か、割と真剣に考察しながら例のテーブルへ向かった。
今、私が持つ情報から分かることは・・
容疑者の2人とも明確な動機は見当たらないものの、被害者の性格や日頃の様子から何か動機が生まれてもおかしくはない。
殺害方法も、毒殺という簡単な手順で実行できる代物なので、そこからの特定は難しい。
しかし同時に、証拠が残りやすいのだろう。あの3つの袋の内どれかから鹿子さんか市原さんの指紋と、漂白剤やカプセルの成分が出れば犯人を決められる。
つまり、私の推理の結論は・・
『科学捜査の結果を待つ』
・・・なんかテレビドラマとかで見たミステリーと違って、ちょっと複雑な気持ちだ。
まぁでも、これが現実なんだろう。これで犯人が分かればいいんだし、落ち込むこともないか。
そんな場違いな落胆を胸に、私は歩みを進めた。
※※※
再び例のテーブルに来た私たちは、先着の探偵部2人が真剣な表情で話しているのを見つけた。
「やはり被害者にはサラダが来てから初めて水を飲む癖があったな・・」
何かを2人で相談しているようだが、私には何のことかサッパリだ。
そんな2人は私たちに気づくと、話を中断してこちらへ向き直る。
「あなたたちは・・江に言われて、さっきから現場を歩き回っているのね」
そう声を掛けたのは、確かさっき『青里 美咲』と呼ばれた人だ。
「もうすぐ飯間刑事が来るからここで待っていて・・そこの先輩さんも」
青里さんは小倉さんと目を合わせている。
一方で小倉さんは苦笑いで軽く会釈する。
あれ?ひょっとして小倉さん、緊張してる?というか、緊張していない私の方がおかしいのか?
しかし緊張しない理由は、警察と話すことの不安より、殺人事件が起きたことへの恐怖より、この『探偵部』という組織への疑問が遥かに大きいからだろう。
探偵部2人との邂逅から間もなく、飯間刑事と容疑者の2人が歩いてきた。
「お待たせしました・・って平一、彼女らには参加してもらわない方が良いんじゃないか?部外者だろ?」
刑事さんの言う『彼女ら』というのは無論私と小倉さんだ。
辛辣な言い方をされた反面、刑事さんもそう呼称せざるを得ない。この人たちにとって私たちは無関係な第三者なのだから。
「で、ですよね。私たちは邪魔ですもんね・・真希、行こう?」
小倉さんにそう言われたら、私もここには残りにくい。というか、そんなにこの雰囲気が嫌なのか・・。
諦めて去ろうとした時、意外過ぎる人物に止められた。
「いいえ、彼女たちにも参加して頂きます。というか、参加してもらわないと困ります。お2人も含め、この状況を作るために長々と捜査していたんですよ」
・・え?困るの?
自分で言うのも変だけど、興味本位で聞いてるだけだよ?すっごい部外者だよ?
しかも今『この状況を作るため』って言ったけど、まるで私たちがこの場にいることが目的だとでも言いたげだ。
私の中で次々と疑問が生み出されていくが、白澤くんはそんなことなど露知らず話し始める。
「皆さんを集めたのは、1つ簡単な確認がしたかったためですので、どうぞ肩の力を抜いて私の話に耳を貸して頂ければ幸いです」
どこかのパーティの司会みたいな始まりになっているが、これはミステリー小説とかでよく見る『推理ショー』なのか?
だけど、犯人はあの2人のどちらかで、それを確定させる証拠は私と小倉さんが探した3つの袋の検査結果で明らかになるはず。
そんな素人の懸念なんて他所に、白澤くんは語り始める。
「それでは、事件発生の前後から振り返りましょう」