第2話 最悪の出会い
6月になり、もうすぐ梅雨に突入するこの頃。
「いらっしゃいませー!」
私は赤崎 真希。バイトに励みお小遣い稼ぎをしている、色沢高校の2年生。ちなみにポニーテールが気に入ってる、という誰も興味ない豆知識を加えておく。
日本中に店舗を広げる大規模ファミレス店の1店舗で働いている。
ここで働き出して半年、体も頭も慣れてきて、とてもこのバイトに充実していた。
・・していた。そう、今までは。
※※※
「いらっしゃ・・・い・・ませー・・」
入店のベルが鳴ったので私は普通に挨拶しようとお客さんを見て、動揺のあまり呂律が上手く回らなくなる。
その理由は——お客さんの服だ。
一般的には、男1人に女2人の学校帰りの高校生グループだろ、という感想で終わるはず。
しかし、私にはちょっと事情が違う。
紺色を基調としたブレザーに朱色のネクタイ。デザインに遊びは無く、真面目な雰囲気を醸し出している。
要するに——3人とも私が通っている色沢高校の制服を着ていた。
胸元には校章が縫われており、その色は学年で異なる。つまり、そこの色で学年が分かるのだ。
私から見て左の女の子は青、つまり1年生で、真ん中の男の子と右の女の子は赤、つまり2年生だ。ちなみに3年生は緑。
・・これはマズイ。
もちろん、私の学校はバイト禁止というわけではない。ただ、私にも友達がいる。その友人たちに、私がバイトしていることは内緒にしている。
もし友達にここがバレたら、その、なんというか・・ズバリ、恥ずかしいのだ。
特に生徒が多い訳ではない色沢高校。この3人とすれ違う確率も低くないだろう。
今日顔を覚えられ、廊下で出会した時に声をかけられようものなら、色々な過程を経てしまい、次にこの店に来るのが知人になってしまう。
・・なるべく顔を覚えられないようにしよ。
そんな決意を胸にして3人を席へ案内した。
※※※
そんな最悪の出会いから3分後。
あの3人の接客は他の人に任せると決め、誰に頼もうか考える。
テキトーに辺りをウロウロしていると、後ろから肩を叩かれた。
「どーした現役JK!浮かない顔しちゃって!ほら、笑顔笑顔!」
その声の正体は、ここでの先輩である小倉 琴さんだ。
小倉さんは私の指導係だった人で、ここではもう4年も働いているらしい。年齢は知らないけど・・私の見解では20代後半だ。
「やっぱあの3人か。君んとこの制服と同じだもんね」
さすがに気づいていたか。
小倉さんは数少ない私と深く仲のいい先輩だ。当然私の高校も知っている。
「はい・・中には2人も同級生がいて、あまり接客に行きたくないんです・・」
「そーゆーことか。でもなぁ・・今日に限ってこの時間帯の接客、真希と私の2人しか出来ないし・・」
そう、本来この時間にいるはずの他の2人は風邪で休んでおり、私たち2人しか動けないのだ。
時間帯的にそこまで人は多くないので、別に構わないと店長には言ったものの、まさかこんなことになるとは。
ならば・・
「じゃあ、あの3人組とその周りのお客さんは任せていいですか?それ以外のところは私が対応しますので!」
「え、ええー!?」
頼む!これが打開策になってくれ!
その願いが伝わったのか、小倉さんは少し逡巡した後、
「・・わ、分かった。まぁ、真希からの数少ないワガママだし、乗ってあげるよ」
「ほ、ほんとですか!ありがとうございます!あの3人が帰るまでなので、頑張りましょう!」
私が頭を下げると、小倉さんは「頑張ろうな」と力のある返事をした。
心の中で安堵して、小倉さんを送りだす。
これで今日も無事に乗り切れる・・。
———しかし、今日は無事に乗り切れないことを、この時の私は知らない。