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悪魔だらけの探偵部  作者: 木板 実
第2章 歓迎の予告状
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第22話 安易な尋問

 恐らく証拠は出揃っただろう。

 しかし相変わらず状況証拠しかなく、物的証拠はあの展示ケースしかない。

 私は他の3人のように名推理が出来るわけではないので、必死に考えるしかすることがない。

 私としては暗闇の中で聞こえた、物がぶつかるような衝撃音が気になる。けど、それを言うタイミングをすっかり失ってしまった。

 突然の暗転、謎の衝撃音、一面の暗幕、廊下からのみ差し込む日光、展示ケースの防犯具合、そして・・怪しい言動を見せる、三寧さん。

 良さそうな証拠はたくさんあるのにも関わらず、それらを繋げるのが至難の業なのだ。

 猫・・じゃなくて、獅子の手を借りるために、私は白澤くんの元へ行く。

「白澤くん、少し良いかな?あのさ・・」

「いや、良くない」

 ・・・・え?

「悪いが俺はここを離れる。あとはお前らに任せた」

 そんなセリフを残して、白澤くんはドアへ歩き出した。

 あまりに急な離脱宣言に、どう反応すれば良いのか分からない。

 見ると、美咲さんも江さんも特別気にはしていないようだが・・。

「安心しろ。また戻ってくるつもりだ」

 言い終わると同時にドアを閉め、ついに白澤くんの姿は見えなくなった。

 追いかけるのも変だと思い、白澤くんの言葉を信じて待つことにしよう。

 2人の様子からして、恐らく私とほぼ同じ結論なのだろう。

 しかし、そうなると・・

「結局、犯人が当てられますかね・・?」

「ん?ああ、私はもう分かっているよ」

「え?本当ですか?」

 そんな気の抜けた会話が、私の聴覚に劇的な刺激を与えた。

「は、犯人が分かったの・・?」

「だからそう言ったじゃない。まぁ、今回は部長に代わって私が推理ショーを披露しようかしら」

 字面からは喜んでる雰囲気が出ているが、声色はいつも通りのフラットさが保たれている。

 美咲さんはケースに寄っていくと、それを肘掛けのように扱う。

「まず説明しておきたいのは、犯人が宝石を盗んだ方法ね。さっき確認したように、このケースの防犯装置はとても強力だった。それに、仮にロックが解除されたとしても、『暗闇の中、ガラスを持ち上げて宝石をる』という行為を、静かに且つ即座に済ませるなんて、不可能に近いことは明らかよね?」

 相変わらず丁寧な解説を受け、私は黙って頷く以外に何も出来なくなってしまう。

 美咲さんの言うように、手先の技術だけで今回の盗みを働くことは難しい。

 だからこそ、手口が影も形も見えてこない。

「そう、今回の手口は、考え出したら何にでもなるの。暗視ゴーグルを使った、凄い力持ちだった、凄腕のマジシャンだった・・なんてね。犯人像を仮定しようとすれば、どうとでもなるわけ。だから今回は、『手口』から『犯人』を見つけるのではなく、『犯人』から『手口』を探し出すことにした・・探偵部の2人は、()()のこと忘れてないよね?」

 そう言って美咲さんはポケットから一枚の紙を取り出した。

 一目見ただけでその紙が例の予告状だと分かった。多分、江さんも同じだろう。

「これは探偵部に送られてきた・・まぁ、正しくは置かれていた、今回の犯行を暗示する声明、つまりは『予告状』ね。この予告状には、『勇壮な翠玉(ブレイブ・エメラルド)』を盗むという宣言があった。そして事実としてその宝石は消え失せた・・つまり、この予告状は悪戯いたずらではなく本気で、故に『予告状を送った人』と『実際に盗んだ人』は同一人物の可能性が極めて高いわ」

 予告状の説明を受けて、三寧さんと警備員さん2人は目を丸くしていた。


「そんな予告状を送った犯人、探偵部の見解では容疑者はたった1人・・生徒会書記の三寧 佑磨さん。あなたが犯人ね?」


 そう言って美咲さんの冷徹な視線が三寧さんに突き刺さる。

 一方、三寧さんは拮抗するかのような視線を送り返す。

 どうやら無言を貫く様子の先輩を確認した美咲さんは、今朝と同じように彼が犯人である理由を並べ始めた。

「この予告状が探偵部部室に置かれたのは今から1週間前の放課後。今時、こんな古臭い形で予告してくる輩の動機だけど・・色々な可能性を吟味した結果、『犯行を阻止してほしい』というのが犯人の意図だと推測したわ」

 つまり犯人は自ら望んで盗みを働きたいわけではないということになる。

「探偵部にそんなことを依頼する犯人・・その犯人はつまり、()()()()()()()()()()()()ということになる。この学校にそんな人物は、数えられるほどしかいないの。例えば、各部活の活動をまとめるのが仕事の生徒会、とかね?」

 ここまで攻め込まれてもまだ三寧さんは口をへの字にして維持している。

 反論できる場面は何度かあったけど、一体なぜ彼は傾聴に徹しているのか。

「そして仕上げに、予告状の最後に書いてあった『セイナン』という単語だけど・・これってアナグラムなんでしょう?ローマ字にして試してみたら、案の定『サンネイ』となったわ。これを偶然とは呼ばせないわよ」

 何度も言うように、いづれも全て『状況証拠』で、その気になればいくらでも言い訳が効く。

 しかし逆に、これだけあやふやな証拠たちが指し示す先に容疑者が1人しかいなければ、その信憑性は格段に増す。

 予告状の話に一度ピリオドを打つと、美咲さんは続けて犯行時の場面に話題を移行する。

「そして事件は実際に起きた・・突然の停電が起こり、それに乗じて宝石を盗んだ。この流れだったとすると、最大の弊害はやはりこの展示ケースよね」

 美咲さんが手を添えたケースは、宝石が無い今では価値の無い無機質な物体に過ぎない。

「解錠に手間がかかるロックもあれば、重量が少し重いガラスを退ける必要もある。それも停電している間に済ませなければならない。普通に考えると犯人にとって不利な状況だけど・・もし、犯人が()()()()()()()()()なら話は別でしょう?」

 そうあげつらった美咲さんは、目線は相変わらず三寧さんに合わせながら、挑発するように自分の胸ポケットを人指し指で2回叩く。

 それを見た三寧さんは、自分の胸ポケットに手を入れて、先程そこにしまったリモコンを取り出す。

「そのリモコンは、きっと四六時中あなたが持っていたでしょう?そのリモコンにガラスの施錠以外の装置も備えておくことは十分に可能なはず。犯行の手助けとなるような装置をね。勿論、そんなのは調べないと分からないことだけど・・最悪の場合は、警察に押収された時に確認してもらえるからそこは問題視していないわ。けど、素直に自白した方が賢明じゃない?」

 その装置のことは、考え出したらきりが無い。

 ただ、ここまでの状況証拠が装置の存在をはっきりと浮かび上がらせている。

「宝石が無くなった後、教室の全員に宝石を探させたところからすると・・見つからない自信があったのでしょうね。誰がどこを探すのか想定できない以上、絶対にバレないのはたった1箇所だけ。そう、あなた自身が肌身離さずいる場合よ」

 肌身離さず、ということは今もポケットにいれているということ?

「恐らくあなたは停電の中、展示ケースへ近づいてリモコンで操作し、宝石を自分のポケットに忍ばせ、何食わぬ顔で元いた場所に戻った・・さっき確認したように、停電時に唯一の光源だった廊下からの日差しはこのケースには届かなかった。だからバレないように接近することは可能だったでしょうね」

「あ、あの!ちょっと待って!」

 美咲さんの推理が猪突猛進する前に、私は勇気を持って制止を呼び掛ける。

 予想外の人間からの予想外の行動に、美咲さんだけでなく江さんもこちらを見ている。

 一方で三寧さんは落ち着いてこちらを見ているのが少し違和感ではあるけど・・。

「どうしたの?何かおかしなところでもあった?」

「いや、おかしなところというか・・実は停電した時、驚きのあまり目の前にいた三寧さんの腕を掴んじゃったの。もちろん私は停電の間ずっと、ケースから離れた所に立っていたから、三寧さんが宝石を盗むためにケースへ近づくのは不可能だと思うんだ・・」

「なっ・・・」

 ・・しまった!もっと早く言えば良かった!

 なんて言い終わってから後悔しても無駄だ。

 案の定、私の話を聞いた美咲さんは目を丸くしている。

 瞳には明らかに動揺が映し出されている。

「・・ふふ、ははは」

 するとここにきて三寧さんが動き出した。

 しかも、これまでと違って顔には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

 焦点が定まっていない美咲さんの方へ静かに歩み寄ると、久しぶりに口を開いた。

「・・彼女の言う通り、停電の中、僕には宝石を盗むことは出来ません。それに、そこまで疑うなら是非僕を身体検査してください。残念ながら宝石が出てこないのは自明ですよ」

 声色は前のような柔らかさを保っているのに、言葉からは今までで最も圧力を感じる。別に自分を疑った美咲さんを責めているわけではないようだ。ただ、何か拭いがたい重みがあるような・・

「あなたの推理は完璧でした。しかし、その推理を支える証拠は全てあなたの言うように『状況証拠』に過ぎません。そして、最も必要な証拠である宝石が無い以上、最後の最後でその推理は机上の空論とす・・違いますか?」

 最早俯いている美咲さんは、目を開き続けている。きっとまだ他の証拠や手口を模索しているのだろう。

 私が不用意な発言をしたばかりに美咲さんを困惑の渦に落としてしまった・・こんなときに、白澤くんがいてくれたら・・。

「もう一度、しっかり考えてみて下さい。果たして宝石はどこにあるのか?この教室ですか?それとも・・」


 ガラガラガラ。


 ドアが開く時の摩擦音により遮られたのは、今度は私ではなく三寧さんの言葉だった。



「宝石はこの教室にありますよ」



 廊下から入ってきた白澤くんは、私たちをあざけるように笑っていた。

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