表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

燃え尽きるまで

掲載日:2019/03/18

 

 僕はうとうとしていた。意識はまどろんでいた。夢を見るほどではなかったが、現実感を失っていたのは確かだった。

 ふと、目が覚めると、僕は自分がどこにいるかを悟った。カントのカテゴリの理論…夢は、カテゴリに当てはまらないから現実ではない、というような理論…しかし、要するに、僕たちはただ種々の夢を見るという事ではないのか。

 僕のいる場所は図書館だった。ここは図書館だ…近所の図書館。僕は赤いふかふかした椅子に座っていた。どうして赤いのだろう? 赤い椅子に座ると、心理学的に「プラス」の効果でもあるのだろうか?

 部屋を見回すと、勉強している学生とか、歴史小説を読んでいる老人とか、漫画(漫画も置いてある)を読んでいる小学生とか、色々な人達がいた。ああ、そこには実に色々な人がいた。

 僕の膝には一冊の文庫本が載っていたが、どうしてそんなものが載っていたのかわからない。そんなもの読まなくていいのに。

 僕は…本を返そうと立ち上がって、急に、自分がどこにいるのかわからなくなった。本を返す? …一体、どこから借りたのだ? 借りたものは返さねばならない。だが、僕は世界から何一つ借用していない。僕は本を赤い椅子の上に置いたまま、そこを立ち去った。

 ここはどこなのだろう? 僕はさっぱり、わからなかった。エスカレーターを降り、出口に近づいた時、丁度話しかけやすそうな誰かが正面からやってきたので、話しかけた。そいつに。

 「すいません」

 そいつは、こっちを見た。驚いているようだった。

 「ここはどこでしょう? 場所が、わからなくなってしまって。ここは…なんていう所なんですか? 名前はあるんでしょうか?」

 そいつは、あからさまに困った顔をすると、目を伏せて、「すいません、ちょっと…」と言って、僕の横をすり抜けていった。おいちょっと待てよ、人が丁寧に頼んでいるのにその態度はなんだよ。そう言おうと思ったが、ぐっとこらえて通り過ぎた。

 自動ドアが開けて、建物の外に出た。外ーーそうか、ここは外か。僕は「外」に出られるんだ。

 僕は眩しい日差しのする方に向かって歩いていった。そうして今が、昼だという事が僕にもわかった。そうか、今は昼なんだ。昼。生きていくにはそれだけの知識があれば十分だ、と僕は考えた。僕は目覚めた。覚醒した。そうして太陽の方向に向かって歩いていった。太陽が燃え尽きるまで歩いてくつもりだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  読者の好奇心を引っ張る仕掛けが幾つもあって、非常に機能していたと感じました。面白かったです。 [気になる点]  とくにありません。美しいベクトルがあると思いました。 [一言]  怒らず…
[良い点] 読み始めてから緊張感を持続させたまま(途中で飽きずに)最後まで一気に読了しました。主人公の内的独白、知的思弁、感情、雰囲気が矛盾なく一貫しており、文章、内容とも、掌編小説の文学作品を読んだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ