そうは言っても、素直になれない自分がいる。
「――おい」
「な、なに?」
「その腕をどかせよ。何を今さら恥ずかしがってんだよ。年上のくせして、しかもアラ――」
「その口を封じる――」
「……どうした? 口封じの口づけをしないのかよ? それなら俺がやるけど」
「や、やめっ……」
年下の大学生である倉科をまたしても自分の部屋に誘い込み……というよりも、自ら招待。実のところ、自分の部屋に入った途端に、全身の力が抜けて緊張感ごとどこかに消えてしまっていた。強がって見せてはいたものの、やはり恐怖を覚えてしまった自分の身体と心は、すぐには回復しないことを知る。
「んっ――」
「――こういう時、いて良かったって思えるだろ?」
「……ま、まぁ」
「甘えろよ。下も上も関係ないだろ」
「いやっ、彼氏でもないのにそんなの……」
「今はそういうこと言わせない。黙っとけよ、みつきの安心を俺が――」
これって何かの機会ってことなのかな? 吊り橋効果で動悸だけはずっと激しさを増しているけれど、私だけが勝手に思い込んでしまっている……そうじゃないのかな。
「――」
致してしまった……これって、一時の迷いとかそういうことなんだろうなぁ。学生が年増捕まえて何をしたところで、痛くもなんともなさそうだし。痛くなるのはどうせ、いつも私だけなんだ。だから、希望しない。
「……じゃあな、みつき。俺が帰ってからも寝直せよ? それと顔洗え」
「言われなくとも! あ、の……ありがとう」
「……ああ」
「う、ん……また」
次は無さそう。大体いつもそうなんだ。学生の倉科はバイトで私は社の人間。いなくなるのは彼の方で、そこに残り続けるのはいつだって自分だけ。いつもこの繰り返し。だから慣れたし、そう思わなければやっていけない。アラサーの恋愛ゲームに誰が好き好んで付き合ってくれるっていうんだろう。
「はぁ~あ~」
「うっわ、朝からそのため息は無いわー」
「はぁ? あんたこそ学生のくせに朝から何でいるわけ? あ、暇だからか」
「何とでも言え。どうしてそういう態度になれるのか、俺には理解不能」
「昔っからこうなんだけど? それをたかだか……っ!」
「――また思い出させてやろうか?」
狭い通路に衝立だけの仕切り。そんなところでこの子は何をしようと言うの? どうしてアラサーの私にこうまでしてくるのか、単なる気まぐれ? それともからかい上手? 勘違いなんてさせないで欲しい。
「っと、やらねえよ? 俺はこう見えて真面目人間。誰が好き好んでオフィスラブなんかやるかよ」
「でしょうね! 学生ごときが私にそういう感情を示すとか、期待する方がバカだし?」
「――本当にそう思ってるのか?」
「どういう――」
「知らね」
あぁ、もう! 一夜だけの関係で何でこうも頭の中をかき乱されなきゃいけないんだろう。この感情は何? 忘れていた胸の高鳴りをまた自分の中で甦らせようとしているってこと? そんな期待はとうに錆び付いているっていうのに。それなのに、気にしすぎているのは私だけってことなのかな。