強制的に始まりそうな恋?
いかにも怪しげな男女の人らに一瞬の隙を見せた私が悪いのだけど、やっぱ肌が綺麗とか少なくとも普段会社で言われることがないだけに、ホントその部分だけ油断を見せてしまった。
「お姉さん、元モデルとかでしょ? そんな肌させて、なのに重そうなビニール袋持って手を赤くさせるとか、それは駄目でしょ」
「はぁ、まぁ……」
「ごめんね、紹介が遅れたけどウチらはまさに、現役のモデルプロなんですよ! この子もウチの所属。お姉さん程、肌綺麗じゃないけどね。なので、アドバイスしてくれないかな?」
「いえ、私は社に戻らないとなので……」
いかにも怪しすぎるよ。あぁ、こんな連中に付かれるとか本当にツイてない。肌綺麗って自覚はないのに、女性にアドバイスしてあげれば解放してくれそうだし、そうするしかないのかな。
「あの、お願いします。せめて使ってるファンデーションとか、手入れの仕方でもいいので」
「あ、じゃあ、ここでなら――」
「お姉さん、ここはこの子が恥ずかしいみたいなんで、すぐそこに見える雑居ビルの前でお願いしますよ」
ビルの中じゃないならいいかな。外ならさすがに変なことしないだろうし。
「はい、そこでなら」
「ほい、決まり~! ってことで、俺らがお姉さんの両脇を守りますんで、歩きましょうか」
「は、はぁ……」
って、つくづくバカだな、自分。これって絶対何かの誘いでしょ。小間使いなんてやるものじゃないって後悔しても仕方ないけど、肌のことは結構デリケートゾーンだしそこを褒められたらいい気にもなるし。
雑居ビルの前に着いたけれど、さっきまでいた女性はいなくなってた。幻? なわけないか。
「あれ? 女性はどちらへ行かれたんです?」
「あぁ、あれはウチの所属とは無関係の女。ってことで、来てくれるか? お姉さん」
「え?」
「そうじゃねえとビニール袋返せないな。ほら、中に入って」
「い、いえ、帰りますんで。それ、返してくれますか?」
ホントバカだ。どう見ても誰が見ても怪しいのに、何でかな。しかも夜の繁華街って人目に付いているようで、誰も興味ないからいちいち見て来ないし。やばいことには関わらない人多すぎでしょ。
「返さないよ? ほら、中に入れって! 分かってて来たでしょ?」
「分かりません」
「俺らは肌が普通のお姉さんを勧誘するのが趣味、いや仕事なんでね。中に入ったら一緒にアドバイスもらおうかな。三十路のお姉さんにね。くっくっく……あり得ねえだろ! モデル? あり得ねえ~っはは」
「ここは、アレだよ。俺らを満足させてくれるお姉さんの為のビルなの。分かる? 小遣い稼ぎ出来んだし、拒むのは真面目にバカ。はははっ! ってことで、そのコスプレっぽい制服脱ぎ捨てしてもいい? 嫌でもするけどねっ」
うわうわうわ、マジですか。こんなのこんな所でしてるんだ。それに絡まれるとか終わってる。っていうか三十路違うし! ムカついて仕方ないけど、どうしよ。
「そこの綺麗すぎる姉ちゃん、俺を見ろ!」
「はっ? って、あ――」
「おいおい、何だお前……このお姉さんは俺らの――」
「走れっ! みつき」
「え、あっ……うん」
って言っても急には走れないし、ビニール袋とか取られたままなんだけど? でも逃げるの優先か。
「待てコラ!! おいっ!」
「うわ、やべっ。ほら、手を掴むからしっかり握って!」
「は、はい」
あれ、これって何のドキドキ? 危険な目に遭う前の動悸だよね。そういう意味のドキドキじゃないよね。何でここにコイツ、この子が来てんの? まさか付けられてた? でも今は走るしかないか。何だろ、何だかなあってなってる。
「姿見えなくなるまで公園で隠れるけどいいだろ? みつき」
「う、うん……(あれ、何かやばい)」