綺麗ですねなんて言葉は噓っぱちって気づこうか。
「邪魔っす」
「はぁ? それひどくない?」
「や、ひどくは無いですね。正直に言ってるだけなんで。てか、いつもその辺りでつっかえてるのを見ますけど、見えない棚でもある?」
「あるわけないじゃない! バカなの?」
「俺はあんたより賢いですけどね。賢くなかったら送っていけないだろうし」
くぅっ……酒に呑まれて送られて、下着まで見られたわたしには何も言えない。だけど、職場でその態度はあり得ない。立場はどう見てもわたしの方が上だし。忙しい職場だから、通路はいつも誰かとすれ違う。それも書類を片手もしくは、両手のままで。
それなのに、意識もしていないのに何でこいつとすれ違うんだか。単に小間使いをされている率が高いだけなの?
「あー、俺はパシリじゃないぜ? 優秀すぎるから使われて、いや、使ってくれているだけだし? そういうみつきは足手まといだからじゃね?」
「うるさい! 学生に分かってたまるか」
「……どちらへ? もう暗いけど、外に小間使い?」
「残業者に買い出し! ついてくんな!」
「行くわけないだろ? 俺は優秀……」
「はいはい、分かってますから! 学生くんは残業もしなくていいくらいに優秀だものね? 買い出しに行くわたしを敬いながらタイムカードを差し込んで帰りなさいよね」
「なんだそりゃ」
面倒くさい! 下着くらい見られたって何も起きないし、起ころうともしなかった。そもそも記憶を失う位呑まれたわたしには、男の気配は近づかないわけだし? 学生のあいつも興味本位で話しかけてるだけでしょ。
まだ夜の7時くらい。冬のこの時間はすでに暗く、繁華街のライトアップだけは眩しさをアピールしているけれど、わたしにその眩しさを当ててくるあたりが嫌味っぽい。
酒専門店で安売りのチューハイとかを買いたい気持ちを抑えて、おつまみと清涼ドリンクを買い込む。レジを終えた頃には、両手にズシリと負担のかかったビニール袋がわたしを攻撃している。
「……しょっと」
手に重みのある物を数分以上持ち続けているだけで、手のひらは赤みを見せる。それが嫌で何度も持ち手を変えて会社まで持っていく。それはいつもやってることじゃなく、たまたまだった。
「すみませーん、そこの両手のビニール袋持ったお姉さん!」
へ? わたしかな? てか、イケメンが2人とワイルド系な男が一人? いや、女性も一人いるかな?
「はい?」
「さっきから見えてて大変そうでしたけど、買い出しとかです? 俺らが手伝いますよ?」
うわ、どう見ても胡散臭い。こんな嘘な親切なんていらないんだけど。でも、少しだけ持ち手を変えたい。その数秒だけでも持っててもらおうかな。なんて、アホでした自分。
「あ、じゃあ、持ち手を変えるので右手のビニール袋だけ……」
「いや、両手が辛そうだし。せっかくそんな綺麗な肌をしてるのに、痕をつけるのは俺たちの心が悲しいんで」
「はぁ、どうも……」
綺麗な肌なんて言われたの、いつ以来だろうか。この言葉で怪しいとか思わないわたしがバカだった。