追われている日々に追い打ち。
ウチの会社は忙しい。そんなのは入る前から分かりそうなものでしょ? なんて言われるけど、分かるわけない。外からはビルの中のことなんて見えるわけが無い。そこそこの高さでそびえ立つビル群の中で、わたし、金谷みつきは書類に付随する業務をしている。それこそ、働く年齢は幅広い。年功序列? そんなのは基本的にあり得なかった。もちろん、重役は別ではあるけど。
人が行き交う通路は、ほとんどの人が何かしらの書類を手にしながら慌てている。急ごうが急ぐまいが、忙しい。そこでのわたしは新卒からだから所謂お局に近い。けれど、イメージとしてそう呼ばれてたまるかってなる。男も女も幅の広い年齢層なわけで、とりわけわたしはまだ若い部類。
それでも、現役大学生もそれなりに働いていて、何もしていないし怒ってもいないのに、ここで働くわたしやベテランの女性陣を煙に巻く男子学生がやたらと多い気がしてならない。
「そこ、どいてくれる?」
「ご、ごめんなさい」
何で先にいたのに、避けなきゃいけないわけ? なんてことを心の中で叫んでも、この子たちには気づかれもしない。気付かれたくもない。
「すんません、コレ、どこっすか?」
「あ、はい。それは突き当りの……」
「あー、もういいす。自分で行くんで」
はぁ? 自分から聞いてきといて何で途中でぶった切るわけ? おかしいんじゃないの? これだからガキは! なんてことばかり思う日々。ガキって言っても、わたしはまだ20代。彼らと変わらないんだ。今はまだ……ね。
「邪魔なんで、避けてくれます?」
「そういう言い方! キミ、名前は?」
「個人情報ですけど?」
「ここ、職場。名前知らないと用事も頼めない。分かる?」
「倉科洋太。で、避けるの? 避けないの?」
「こっちが先。避けたいなら、わたしを押しのければ?」
「そうする」
えっ? な、何? 何か普通に体押しのけて体当たりとかしてくるんですけど? 何なのこの子。態度もでかいけど、言葉通りにするとかってどうかしてる。こんな年下と話なんて合うわけが無い。この時まではそう思っていた。
普段は職場の飲み会なんてほぼ来ない。それなのに、気まぐれを起こしたのか数人の男子学生も参加していた。その中にはわたしと合わない奴がいた。まさかのベタ展開でも起きるのか? なんて思っていたけど、甘かった。見向きもされなければ、話しかけもされなかった。身内ノリという奴で、男子学生はそいつらだけで盛り上がっていた。だったら職場の飲み会じゃないよね?
それなのに、どうして帰り道は同じなのか理解に苦しむ。倉科、わたしはコイツと合いそうにない。
「何もしないのに、何で睨んでるのか不明」
「何で付いて来るのか意味不明」
「仕方ない。同じ道だし。それなら、あんたがタクシー呼ぶべきなんじゃね?」
「呼ばないし。遠くないし」
「あ、そ」
合わない奴とは話も合わないのに、帰る道が同じ。それだけだった。それだけだったのに、この日がわたしのターニングポイントになってしまうなんて、本当に思えなかった。年下の大学生倉科洋太。コイツと。