第一章1 『君との邂逅』
気づくとそこは森だった。我が身は月によって照らされている。時刻にして七時位だろうか。
頭の中では、今でも膨大な情報が脳内を駆け回っている。このままでは虚血してしまうほどに。
・基本魔術鉄板書 初級編
・レベリングに最適! グラウンドゼロの扱い方
・黒魔導ノ書 インクラム教ノ呪術
これは分からない。一先ず安全な場所を確保しなければ。
宿屋を求めるため、一歩を踏み出した。あれ、道が分からない。その上人気も無いから困ったらものだ。
すると、草むらから一つ、物音がした。ガサガサ、ガサガサと揺れる草むら。怖い。一人位来てもいいんじゃないか、普通。
満を持したのか、飛び出してきた。出てきたのは、狼とおぼしき獣。
ガルルッ、と威嚇され、俺は億劫で身動きが取れなくなった。
襲われる、そう思った瞬間――。
走り出され爪先が俺の胸辺りまで来た寸前、少女が狼を絶ち斬った。何回か転がると止まり、そのまま動かなくなった。
有無を言わせないその剣筋に見とれた俺は少女の顔に目を向ける。長い銀髪で帽子を被った可愛らしい風貌である。年齢は十四、五辺りだろうか。また、頭部から下の服装は何かの装甲のような物になっている。
というよりこんな時間に出歩いてるのか。
「大丈夫ですか?見慣れない服装をしていますね」
そう言いながら差しのべられた手を素直に受けとる。そういえば俺、私服だわ。N○KEのシャツ着てる。
「すみません、遠い国から来たものなので。よろしければ、あなたの住む町まで案内して貰えませんか?」
「大丈夫ですよ。今日はもう暗いので私の家に来てください」
おっとこれは、いきなり誘ってるのか? 絶対に違うだろうが。
だがしかし、その程度では動じぬのがこの新生ササキ。いつかハーレムを作ってやるぜ。
「それではお言葉に甘えさせていただきます。因みにお名前は何ですか?私はトウマ・ササキと申します」
「私はフォリア・アルテミストといいます。それにしても変わった名前ですね、トウマさん」
「そうですね。この辺りだと珍しいと思います。フォリアさんはどこで何をされているのですか?」
まずはこうして地道に相手のナカを探る。大分頭もリラックスしてきたのに加え、久し振りの女の子との会話も相まって気分がいい。
「今向かう町、ゼラチ国アルプルギス領地で、魔法図書館で働いていますよ」
「魔法図書館ですか……フォリアさんは剣を扱ってましたよね」
恐らく日本の図書館だと思う。何をするのかは後で聞こう。
ていうか二人で肩並べて歩くの凄い嬉しい。
「はい、父が魔法使いなので。私には魔法使いの素質がなく、かわりに剣術を嗜んでいます」
「お父様とお母様は、今どちらへ?こんな夜中にまで出掛けているのでは両親も心配しているのでは」
「今はゼラチ国とアルミ国で戦争をしているので、父は傭兵として現地へ出発しました。母はいません」
「……」
正直、勘づいてはいた。俺自身幼くして親を無くした身であるがゆえ、話し方に何か引っ掛かるものがあった。
それよりも、そういうことだよね。二人きりのまま二人きりの家で過ごすということだね!
「……お気持ち痛み入ります」
「いいのですよ、そんなに畏まらなくて」
「そうですか、場も明るくしたいですし分かりました」
「はい!……と、そろそろ着きますね」
その笑顔、守りたい。
着いたところで、目前には町の門と関所が設けられている。中をチラリと拝見すると各々で夜を楽しんでいる姿が見える。
これは夜遊びもいけそうだな。
「おや、フォリアちゃん、帰ってきたのかい。その男は誰だい?」
「森でワーウルフに教われていたので助けたのですよ」
「そうかい。それじゃあお兄さん、身分証見せてね」
「えっ」
無いな。ワーウルフの単語が出る時点大方予想済みだったが。この調子だとギルドとかもありそうだから困るよ、フォリアちゃん。
「なんだい、持ってないのかい?身分証は必須の持ち物だろ」
「そうですよね。ですが遠出の者ですので身分証は所持していないのです」
「身分証がない?よく見るとお兄さんの顔、ヤマト国っぽいしな」
ヤマト国?日本に近い国かな。ここは話に乗らないと。
「はい、申し訳ないですがどこで発行できますか?」
「今回は通してやるから明日、フォリアちゃんにギルドまで連れていって貰うといい」
これはデートのチャンス!
「なるほど。お願いできますか、フォリアさん?」
「もちろんです」
にっこりと微笑んでくれる。天使かな?
「ありがとうございます」
「決まりだな。通りな」
「行きましょうか、トウマさん」
「はい」
あれだな、知り合ってばかりの人に下の名前で呼ばれるにはむず痒いな。嬉しいけど。
門を潜り抜けると、割と普通の町だった。