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エリーゼが気が付いたときには、大分馬車は走っていた。外に見える景色は、森の真ん中で、木がたくさん生い茂っていた。
「エリーゼ様、お目覚めになったのですね?」
「う、う~ん、ここは、どこかしら? 妙に揺れるわね」
「乗合馬車の上ですから」
「!」
エリーゼは、急に旅に出たことを実感した。カール公爵の反逆を防ぐために出て来た。だが、カール公爵は、本当に国を売る気があるのかどうかもわかりはしない。
(もし、勘違いだったら、私、ひどい事をしているのよね)
少し考えようと思ったが、馬車の揺れがひどくて、集中して考える事が出来ない状態だった。
(これだから、庶民の乗り物は……)
少し、イライラしてそう思ったが、自分で決めたことだと心を律する。『アントナイト』、この存在が、絶対、解決に導いてくれると、エリーゼは、確信して疑わなかった。
乗合馬車は、ガタガタと音を立てて進む。
一緒に乗っている人は、大きなリュックを背負った男の子と、占い師か魔女のような女の人、筋肉自慢の大男がいた。全員離れて座っている。
「エリーゼちゃん、もしかして、あいさつでもしようと思った?」
アルーが、きょろきょろしていると声をかけて来た。
「……」
少し、あいさつするべきか悩んでいたので、一応頷いた。
「何で、あの人達、離れて座っているかわかる?」
「? わからない」
「あのね、荷物を取られたり、因縁をつけてお金を取ろうとする輩がいるから、関わらないようにしているんだよ」
「つまり、あいさつは、危険だと言いたいのね」
「その通りだよ」
アルーは、良くわかったねと顔で言っていた。
(その位、私だってわかるわよ)
少しアルーの態度に怒りを覚えたが、黙って座っていた。
☆ ☆ ☆
いつの間にか、乗合馬車は終点に着いた。乗っているのは、大きなリュックを背負った男の子だけで、他の人は、途中で降りた。
「さあ、次は、どうしますか?」
アルーは体を伸ばしてルシードに訊く。
「少しはお前も考えろ」
ルシードは、イライラした態度でそう言った。
「考えても良いよ、でも、俺は、情報屋だから、いろいろ知っている。そのせいで、選択肢がたくさんになっちゃうと言う問題がある」
「そうよね、きっと、色々な所で似たような話を聞くでしょうから……」
「それで、まず、ここの地図、北のロックポックでは、どんな話を聞いた?」
「そうだな、小さな人の住む場所が地下にあるって聞いたな、ここから丁度西に一キロ行ったところにいるらしい」
「行ってみよう」
「うん」
エリーゼは、力強く頷いた。
西に一キロ、まっすぐに行けば近いのだが、そうはいかなかった。
「大木が塞いじゃっているね」
そう、目の前には、大きな大木が立っていたのだ。
「でも、これ、とても立派な木」
エリーゼが、大木に触っていると、大きな穴がある事に気が付いた。
「ねえねえ、この穴、何だと思う?」
「どれどれ」
その穴は、とても深く、落ちたらケガをしそうな程だった。
「この中に、アントナイトいないかしら?」
「う~ん、行ってみる?」
アルーは、ロープを取り出してそう言った。
「俺は、反対だ。エリーゼ様がケガをしたらどうしてくれるんだ」
「エリーゼちゃん、行きたい?」
「うん」
「どうするルシードさん」
「わ、わかったよ、行くって」
アルーは、持っていたロープを木に引っ掛けて、エリーゼの体に巻いてくれた。しっかり縛ったので、少しきつい。
「ぜったい、ロープを離しちゃだめだよ」
「はい」
するすると、エリーゼの体は、暗闇に入って行く。心の中は、好奇心でわくわくしていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
そして、エリーゼは、地下に着いた。何も見えなくて困っていると、アルーとルシードが降りてきた。
「二人共、ロープは?」
「俺は、鍛えているので、この位の高さは、平気です」
「もちろん僕も、そして、カンテラだよ」
アルーの持っていたカンテラに火をつけると、辺りが明るくなった。そして、辺りを見ると、色々な道具が置いてあった。
「お肉とチーズに、金属の固まりがある」
「何か住んでいるな」
「アントナイトかな?」
エリーゼがわくわくした気持ちでそう言うと、何かにぶつかった。
「侵入者、侵入者」
ぶつかった物が急に騒ぎ立てる。よく見ると、ひげの生えた小人がいた。背は低くエリーゼの膝上位の高さだ。
「何、この生き物」
エリーゼは、パニックを起こしていると。
「ドワーフだよ、ドワーフ、よく本に出て来るだろ」
アルーが冷静にそう言った。
「本物のドワーフ!」
エリーゼの目はとても嬉しそうに輝いていた。
「ドワーフは、地下で暮らしていて、警戒心がとても強く、敵を見つけると容赦のないやつさ」
「それって、私達、敵だと思われているのよね?」
「あ~、うん」
「それって、大変な事なのでは?」
「うん、そうだね」
アルーは気の抜けた返事をした。
「ちょっと待って、私達、ひどい目に合わされる、直前なのよね?」
エリーゼは、アルーの落ち着いた態度に驚いていた。
そんな中、ドワーフは、集まってくる。結局わらわらと、一〇〇人ぐらいに囲まれてしまった。
(どうしよう)
「こいつら、敵だ。捕まえろ」
ドワーフは、そう言って、ロープでエリーゼ達三人を縛った。そのまま、もっと深い地下牢に入れられてしまった。
「どうしよう、アルー」
「大丈夫だから、要は敵じゃないって証明すればいいんだよ」
「どうやって?」
「ヒミツ」
アルーはにやりと笑った。