エピローグ
次の日になると、定期的に開かれている。ダンスパーティーの招待状が届いた。
「そうだ。私、ダンスパーティーに出なければいけないのよね」
ダンスパーティーは、二日後に開催で、エリーゼは、ドレスを作ることにした。
「久しぶりのダンスパーティー、イブニングドレスにしようかしら」
エリーゼは、カタログを片手に悩んでいた。
ローブデコルテや、Aラインのドレスも捨てがたかった。
「アルーは、どれがいい?」
「エリーゼは、ピンクがいいんじゃないですか?」
そう言って指差した物は、胸元の開いていない、リボンがたくさん結んである。かわいらしい物だった。
「子供っぽくないかしら?」
「ええっと、エリーゼは、大人には見えないけど」
「私が子供っぽいって言いたいの?」
「違うよ、エリーゼには、ずっと子供でいて欲しいんだ」
「? どういう意味」
「うんと、ずっと僕の守る相手でいて欲しいと思って、大人になったら、エリーゼは、自分で何でも対処できるようになるだろう」
「そうね、じゃあ、もうしばらく子供でいようかしら?」
そう言って、ピンクのドレスを注文した。
☆ ☆ ☆
そして、ダンスパーティー当日、セリーヌが、化粧をしてくれた。
「チークを薄目に塗った方が似合いますね」
セリーヌは、そう言って次にとりかかる。
「髪は、ストレートでいいわね」
エリーゼの黒髪は長く、サラサラである。
「エリーゼ様、素敵な出会いがあるといいですね」
「ええ」
(ステキな出会い、そうよね、私は、姫、いずれ誰かと結婚させられてしまう運命なのよね)
少し暗い気持ちになった。
「護衛にアルーをつけます。気を付けて行ってくださいね」
アーノルドがそう言って送り出してくれた。
馬車の中は、アルーと二人きり。
(少し緊張しちゃうな)
アルーは、舞踏会らしく、青いコートを着ていた。髪型は、梳かしているが、いつも通りだった。
「エリーゼ、いい出会いがあるといいな」
「ええ」
エリーゼは、苦笑いして答えた。
☆ ☆ ☆
会場に着くと、お嬢様方がかわいらしいドレスを着て、歩き回っている。男の人もコートを着て、気合いの入りようが違う。
「エリーゼ様」
「エリーゼ様」
エリーゼは、注目の的だった。
(はあ、面倒くさい)
エリーゼは、心の中では、そう思っていた。
人ごみの中を歩いていると、ルシードがいたような気がした。
(気のせい?)
少し疑問に思ったので、いた方に行ってみることにした。
(いるかしら?)
よく見ると、やっぱりルシードは、舞踏会に参加していた。黒のコートを着て女の人と話している。
(ルシードにも、いい出会いがあったのね)
そう思って去ろうとした時。
「エリーゼ様」
追いかけて声を掛けて来た。
「ルシード? いいの? 今の女の人」
「いいんだ。俺は、もう一度考えた。エリーゼ様をあきらめきれるかどうか」
「それで、どうするの?」
「影ながら見守ろうとも思いました。でも、アルーには、エリーゼ様を幸せにはできない、だから、あきらめません。これからもエリーゼファンクラブとして、仲良くしていきましょう」
「うん、わかった」
ルシードなりの重大な決断だったのだろうと思い、エリーゼは、受け止めてあげることにした。
「エリーゼ」
アルーの声がする。
「はい」
「はぐれてしまったら守りようがないじゃないですか」
「そうね、ごめんなさい」
少し、首を傾げてそう言った。
「まあ、いいです。エリーゼ、誰かとダンスを踊らないのですか?」
「それじゃあ、ルシードと踊ろうかな?」
「えっ?」
ルシードに声を掛けると、「エリーゼ様、本当にいいのですか」と喜んでいた。
ダンスホールに入って、ルシードと踊っていると、アルーがしっかり見ていた。
(護衛だものね)
エリーゼは、心の中でそう思った。
流れる音楽は、ゆったりしたワルツで、ルシードと密着しているのが良くわかる体勢であった。
「エリーゼ様と踊れて幸せです」
ルシードは、ほんのり頬を赤らめてそう言う。
「喜んでもらえて、うれしいわ」
ウインクを返す。すると曲調が変わり、逆回転になる。エリーゼは、うまくその波に乗れた。
アルーを見ると、少しつまらなさそうな顔をしている。
(あれがヤキモチだったら嬉しいのに……)
エリーゼは心の中でそう思った。
「ステキな一夜を」
「ステキな一夜を」
ルシードと別れる時のあいさつにそう言った。
「アルー、お待たせ」
「お、おう」
アルーの動きが、少しぎこちないように見える気がしていた。きっと、何か考えているのだろう。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
アルーは、口を閉ざして、エリーゼの近くにいた。
「エリーゼ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
遅れてきたレディたちにあいさつをしていた。
「エリーゼ様、私と一曲踊りませんか?」
一人の男が、そう声を掛けて来た。だが、エリーゼは。
「ごめんなさい、今日は、踊るつもりは無いの」
「ルシードさんと踊っていましたよね? それともルシードさんは、特別な方なのですか?」
「いいえ、お礼に踊って差し上げたの、ルシードさんには、恩があるから」
「そうでしたか、失礼」
男は去っていった。
「踊ればよかったんじゃないか? 中々恰好のいい男だったじゃないか」
アルーがふざけてそう言うと、エリーゼはアルーに向かい。
「社交界で踊るダンスって、安い物じゃないの、もし、踊ってしまったら、後々面倒な事があるのよ」
「そうなのか?」
「ええ」
「それなら、踊らなくて正解だったな」
「さあ、アルー踊りましょう」
「ええ?」
「アルーは、私のアントナイト、何度踊っても何も起こらないわ」
アルーは、エリーゼに手を引かれて、ダンスホールに入って行った。
「うわ~、僕ダンス苦手だ」
「私に合わせて、それだけでいいから」
アルーの手が腰にのばされる。手と手を重ね、踊り出す。
リズムは、とてもゆっくりで、じっとアルーを見つめる余裕もあった。だが、アルーは、ダンスに合わせるのが、精一杯の様だった。普段しっかりしているアルーが、困っているのを見ると、なんだか、かわいく見えてしまう。
エリーゼが、ぐっと手を引いた。曲調が変わるのだ。
「アルー、転調するわよ」
「あっ、ああ」
ダンスをじっと見ていたアルーには、転調の時どうすればいいか、解っている様だった。
くるっと一回転する。
「うまいわね、アルー」
「エリーゼがうまいんだよ」
アルーは、恥ずかしそうに笑う。
「エリーゼ様と踊っているやつは、だれだ?」
さっきの男が苛立っている。
「新しいナイトだそうです」
アルーの事は、大分ウワサになっているので、公の場でも怪しまれない。
「エリーゼ様は、ナイトにご執心なんですな」
「そうなのかもしれませんね」
みんなは、知らないのだ。アルーがアントナイトであること、そして、エリーゼと決して恋仲にならない事。
エリーゼは、アルーの腕を強くひいた。
「一曲、終わったのよ」
「そうか」
アルーもエリーゼの腰から手を引いて、エリーゼの手を引き、会場へ戻った。
「アルー、ステキな時間をありがとう」
「い、いや」
「あいさつに決まっているでしょう」
エリーゼは、つんとした様子でそう言った。
「エリーゼは、お姫様なんだなあって改めて思ったよ」
「そう?」
「ところで、エリーゼ、君は、ルシードさんが好きなの?」
「……? えっ?」
エリーゼは、不思議そうな顔をした後、庭にアルーを連れて行った。
庭には、休憩所があった。女の子達を集めて休んでいる人や、二人の世界に入っている者もいた。
「アルー、座りましょう」
ベンチがあったので座った。
「アルーは、私が心配だから、そう言うんでしょ」
「それは、未来の国王になる奴の性格が、性根から腐っていたら困るとは思っているぞ」
「アルーは、真面目ね」
エリーゼは、ふふっと笑った。
「それで、ルシードさんの事、どう思っている?」
「好きだって言ったらどうするつもり?」
「ルシードさんは……」
アルーは、少し固まった。
「良い方じゃないですか、好きなら歓迎しますよ」
アルーの顔は引きつっていた。
「アルー、こんなのわがままだってわかっているけど、あなたが嫉妬っしていると思っても良い?」
「!」
アルーは、困った顔をして、しばらく考えた。
「エリーゼが、勝手に思い込むならいい」
アルーは、顔を赤らめて言った。
「そう、嫉妬してくれているのね、それなら、ルシードは好きじゃないって話すわ」
「なんだ、そうか」
アルーは、ほっとした様にそう言った。
「ねえ、アルー、私、ルシードの事は、ふったって一度言ったわよね? 本当は、本当に嫉妬していたんでしょう?」
エリーゼは、してやったりと顔で言った。
「なっ……」
アルーは、困った後、顔を赤らめ。
「なんで、わかった? 僕が嫉妬している事」
「直感かな? でも、半信半疑だったの、もし、嫉妬してくれてたらいいな、なんて思ていて……」
「いいなと思ったのか?」
アルーは、エリーゼの手を引き、近くに寄らせた。
「あのな、僕は、力を失いたくない、だから、こんなことしかしてやれないけど」
アルーは、エリーゼのあごをくいっと持ち、口付けた。
「!」
「キスは、あいさつに含まるから、しても大丈夫なんだ」
「そうなの」
エリーゼは、何が何だかわからなかった。
(唇が触れた)
後から、ふつふつと恥ずかしくなってくる。それは、アルーも同じようで、顔が赤い。二人で、目を逸らして座っていた。
(でも、何だか、うれしい)
「あのな、エリーゼ、僕達は、伝えてはいけないんだ。それでもいいのなら、一緒にいよう」
「うん、一緒にいれるなら、伝えられなくても良いよ」
アルーは、振り向きエリーゼを抱き寄せた。
その夜は、その後、すぐにダンスパーティーは終わった。帰りの馬車で二人は、見つめ合っていた。
次の日、エリーゼは、自分の部屋で目が覚めた。
(アルーとキスしちゃった)
エリーゼは、心の中で、じわじわと恥ずかしくなった。
部屋を出ると、アルーが立っていた。
「昨夜の事を覚えていますか?」
「ええ」
アルーは、跪き。
「エリーゼ、改めて忠誠を誓いに来た。一生守ると約束する」
「お願いします」
エリーゼは、笑顔を作りそう言った。
アーヌスト王国は、ファルドの死後も、傾く事は無かった。なぜなら、優秀なエリーゼ女王が国を守っていたからだ。その陰にアントナイトの姿があったことは、国中の誰も知らない話である。
(了)




