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アーヌスト城へ着いた。
「カール公爵、着きましたよ」
カール公爵は、すっかり落ち着きを取り戻し、優雅に歩いている。
「カール公爵、中で、王が待っています」
アルーは、そう言って城の中へ入った。
「エリーゼ様がどこにいるか知っているか?」
入り口の門番に聞いたところ。
「わかりません」
と帰って来た。仕方がないので、王様の所に直接向かった。
謁見の間に向かうと。
「アルー、ご苦労だった。話は、エリーゼに聞いた。うまくやるからエリーゼの隣で見ていなさい」
「はい」
アルーは、頭を軽く下げて返事をした。
☆ ☆ ☆
カール公爵が謁見の間へ入って来た。
「こんにちは、みなさん、そんなに怖い顔をしなくてもいいのですよ」
場を和ませるために行ったのだろが、誰一人笑っていない。
「失礼」
カール公爵は、空気を読んでむせた。
「エリーゼさんを監禁したこと、お詫びを申し上げます」
「お詫びで済む問題ではない」
王様は怒った雰囲気でそう言った。
「エリーゼさんが、勝てる戦争なのに、戦争はお嫌だと言うからです」
「それはそうだ。私達は戦が嫌いだからな」
「そこです。私は、兵士達に度々会いに行っています。戦いを求める者もいらっしゃいますし、アーヌストの戦力は、とても強いと思います」
カール公爵は、開き直ってそう言うが、みんなの視線は冷たい。
「皆さん、賛成していただけないでしょうか?」
「アーノルド、この男に一言頼む」
「はっ、今まで、兵士に会っていたのは、情報収集のためだったと、ある方から聞いています」
「何!」
カール公爵は、その話をばらしそうな相手を考えている様だった。
「アインか? アインがそう言ったんだな、あいつは、私を売ったんだ」
「いいえ、アインさんでは、ありません」
(まさか、アーノルドがアントナイトだから知っているとは、言えないものね)
エリーゼは、心の中でそう思った。
「それでも、その情報が間違いだと言う事もあります」
「それはない」
王様もアーノルドの話を信じている様だ。
(当たり前だけど)
エリーゼは、心の中でそう思った。その話をばらしたのは、きっとカール公爵自身なのだろうとわかっているからだ。
「それでは、国民に問うのはどうですか? 勝ち戦をやらないと言えますか?」
王様は眉をしかめ。
「カール、お前は、本当に愚かだな」
ピーピーと音がして、ラジオのスイッチが入った。
『匿名のニュースです。カール公爵が、戦で不正を働き、アーヌスト王国をラカシアに渡そうとしているそうです』
「な、なぜ、ラジオにそんな情報が……」
カール公爵は焦った。
「この情報がウソだとしても、君の立場、信頼は、取り戻しにくいだろう、さあ、どうする? 自白する気になったか?」
「ああ、わかったよ、もう少しだましていようと思っていたのにな」
カール公爵は、さっきまでの朗らかな様子を崩して、怖い顔をして言った。
「アーヌスト王国と、ラカシアの両方が手に入れば、私は、最強の権力を手にできた。ラカシアの王は、無能だ。私にほいほい騙される。あいつならいつでも、蹴落とせる」
カール公爵は、王様を見つめて。
「あんたが一番邪魔だったんだ。私の話を聞こうとしない、私を成り上がりの公爵としか見ていなかった。あんたは、騙せそうになかったからね」
「成り上がりの公爵だとみていたのではない、君が、心の中で、王を蹴落とそうとしていたのが丸わかりだっただけだ」
王様がそう言うとカール公爵は。
「すべて、わかっていたのですね」
「君をいつ裁こうか悩んでいたのだが、まさか、このような形になるとは思っていなかったよ」
カール公爵は、うなだれて。
「私を罪人にして、牢に入れなさるのですか?」
「いいや、君は、企てただけで、すべてはやっていない、爵位をはく奪させてもらうが、それ以上のことはしない」
カール公爵は、顔をしかめた。こういう男は、殺されるよりも地位をはく奪される方が、嫌な事だろうと思った。
「いっそ、殺してしまって下さい」
「いいや、君は、やり直すんだ。田畑や店を持って、下に住む人たちの事を良く知って、そこから始めるといい」
「私が下々の物と同じ生活をするだと、考えられない」
カール公爵はヒステリックにそう言った。
「だが、君には、その罰がお似合いだ」
王様は、そう言って、カール公爵を謁見の間から追い出した。
「大変だったけど、よかった」
エリーゼが、そう言うと王様は。
「エリーゼも、立派になったな、アントナイトを使いこなしている」
「アルーのおかげよ」
「そうそう、僕が有能なおかげです」
アルーは調子に乗ってそう言う。
「アルー、初めまして、私は、アントナイトのアーノルドです」
アーノルドは、アルーに握手を求めた。
「ええっ! あなたもアントナイトなんですか?」
「そうですよ」
「そうなのよ、私のテストをしたのもアーノルドなのよ」
エリーゼが嬉しそうにそう言う。
「昔々、私に話して聞かせてくれた伝説が、実は、とても身近なアーノルドの事だったなんて、わかった時は、拍子抜けたわ」
「不満でしたか?」
アーノルドは、ジト目でこちらを見ている。
「いや、あの、今まで気付かなかったなんて、私って観察力不足だなあと思っていたのですよ」
「あなたにばれる様なら、アントナイトなんてやっていられませんからね」
アーノルドは、しれっとしてそう言った。
「そうですよね」
エリーゼもアーノルドに圧倒されて、文句を言えない。
「そう言えば、お父様、アントナイトは男にしか仕えないって言われたのだけど、それは、知っていたの?」
「知らなかった。アーノルドどうして教えてくれなかった」
「エリーゼ様には、アントナイトが必要だと思ったので、言いませんでした。試験の問題も作ってしまっていたからですね……」
「それって、いつ作ったの?」
「エリーゼ様が、生まれる前です。ファルドの子なら、国をまとめる王に成れると思いまして……」
「男だと思っていたのね」
「……」
アーノルドは、気まずそうな顔をした。
(いつも、冷静だけど、時々あれなのね……)
「アーノルドは、エリーゼの事をかわいがっていた物な」
王様がそう言うと、アーノルドは赤くなる。
(私がかわいいから問題を消さなかったのね、案外優しいのかも)
エリーゼは、そう思いアーノルドを見つめる。
「何ですか?」
「いえ、アーノルドって、いい人だったんだな、と思ったの」
「いつもは、思っていないのですか」
「うん、いつもは、口うるさいおじさんだと思っていたわ」
「口うるさいおじさん」
アーノルドは、悲しそうに言い、落ち込んだ。
「最近、エリーゼは、ルシードとよく一緒にいるが、もしかして、二人は良い仲になっているのか?」
アーノルドがこちらを向いて、驚いた顔をしている。
「男が出来たのですか?」
「違うの、こき使っている。パシリです」
「そうか、それならいい」
「いいのか、エリーゼ、ルシードさんと本当は仲良いだろ」
アルーが余計な事を言った。
「仲良くない、もう、仲良くしていられないと思う」
「もしかして、フラれたのか? あんなにエリーゼの事大好きだって言っていたのに……」
アルーが怒ると、エリーゼは。
「違うの、私がふったの」
「ええっと、ルシードさんは、やっぱり好みじゃなかったのか?」
「え、ええ」
エリーゼは、悟られないように笑った。
(本当は、アルーの事が好きだからふったのだけど、言ってはいけない事なのよね)
少し悲しくなった。
アントナイトの契約をする時、こんなに苦しい思いをしなければいけないなんて、思いもしなかった。
(伝えられないのが、こんなにつらいなんて)
エリーゼは、下を向いた。
「そろそろ、お腹空いたし、ご飯食べに行こうぜ」
アルーがそう言うので、食堂まで、歩いて行くことにした。
「エリーゼも腹減っているから、元気がないんだろ」
「うん」
エリーゼは、アルーの後を追いかけた。




