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次の日、朝日が部屋に差し込む。夜、眠った時間が遅かったので、朝も起き難いと思っていた。
「ふわ~、朝か」
ベッドから降りて、服を着替える。ベージュのワンピースを着て、今日も城中を駆け回っていた。
宅配の届く管理室へ向かい。
「今日は、どんな本が入っている?」
仕事の邪魔だとわかっていても、ついつい来てしまうのだ。
「今日は、まだ、本は入ってないよ」
「そう、それじゃあ」
その時、ふと、王妃の顔を思い浮かべた。
(お母様に会っていなかったわ)
エリーゼは、面倒だと思い、王妃と会う事を後回しにしていた。その、面倒くさい事をしなければいけないのだと思い、気持ちが重くなった。
王妃と会う時は、きちんとしたドレスに着替えて、面倒な化粧までしていかなければいけないのだ。
(セリーヌに任せよう)
エリーゼは、自分専属のメイドを雇っていない、そのため、何かがある時は、掃除をしているメイドにやってもらうのだ。
王様が、昔、専属メイドを決めるときにもめたので、つけない事にしたらしい。
専属メイドがいない代わりに、王様が用意したメイドは、優秀な者しかいなかったのだ。セリーヌは、その中でも特に優秀で、エリーゼもよく頼りにしている。
「セリーヌ、どこにいるの?」
「お呼びですか、エリーゼ様」
螺旋階段から見下ろせる一階に、バケツを持ったセリーヌがいた。
「ええ、呼んだわ」
「今、そちらに行きます」
螺旋階段を上ってくるセリーヌをじっと見ていた。
「それで、何の御用でしょう?」
セリーヌは、冷静に冷たくそう言った。
「お母様に会いに行こうと思ったの、でも、このワンピースじゃ、行ったとき怒られるでしょう」
「そうですね、そんなにみすぼらしい恰好で、王妃様の前に立つのは、失礼に値するでしょう」
「そこで、セリーヌにお願いしようと思いまして……」
「ええ、いいですよ、ドレスを着させてあげればいいのでしょう」
「そう、大当たり」
エリーゼは、嬉しそうに手を叩いた。
「エリーゼ様、では、部屋に向かいましょう」
セリーヌと部屋に向かうと、クリーム色をしたドレスをクローゼットから引っ張り出して来てくれた。コルセットを巻くセリーヌは、ぎゅうぎゅう容赦なく締め付けている。
「いたた、くるしい、くるしい」
「我慢してください」
セリーヌは、思いっきり引っ張った後。
「終わりましたよ」
笑顔で言った。エリーゼは、鏡に映る自分のスタイルが、とてもよくなっている事に気が付き、セリーヌを見直した。
「これだけやって置けば大丈夫でしょう」
「ありがとう、セリーヌ」
「い、いえ、でも、エリーゼ様、お礼に一つ聞いて欲しい事があるんですけど、良いですか?」
「何?」
「本をかしてくれないでしょうか?」
「いいわよ、でも、きれいに使ってくださいね」
「はい」
☆ ☆ ☆
エリーゼが、王妃の元へ向かうと。
「この髪飾り良いわね」
王妃は、ファッションにこだわりを持っている方で、とにかく、新作のアクセサリーやドレスを買いあさる癖があるのだ。金髪を巻き毛にしていて、高そうな宝石のついたドレスを着ている。
「まあ、エリーゼ、一流行前のドレスなんて着て、どうしたの」
「昨日のお詫びをしに来ました」
「昨晩ディナーに出なかったことね、エリーゼ、私は、エリーゼが倒れていないか心配だったのですよ」
「すみません」
「これからは、やめてちょうだい」
「はい、気を付けます」
「ところでエリーゼ、このドレスには、紫が似合うかしら、ピンクが合うかしら?」
王妃が来ているドレスは、ワインレッド、ピンクよりも紫よりも、もう少し赤い色がよさそうだと思った。
「お母様、隣の箱にある、赤い髪飾りが良いのではありませんか?」
「それは、一流行前の品だわ」
「一周回って流行る可能性だってありますよ。そしたら、最新流行ですよね」
「そうかもしれないわね」
エリーゼの助言で、王妃は、赤い髪飾りをつけることにしたようだ。
王妃の間から出ると、すぐに書庫へ向かった。クロックの本を手に取り、読んでいた。
「ああ~クロックの本を読むと山に登りたくなるわ~」
そこにセリーヌが入って来た。
「エリーゼ様、書庫にいらしてたのですね」
「ええ、それよりも、書庫の鍵は閉まっていたはずですけど?」
「書庫の鍵です」
そう言って、セリーヌは、一本の鍵を出して見せた。
「このキーは、メイドの休憩室に置いてあるんですよ。もしもの時、エリーゼ様を助けられるように」
「へ~、そうなの、セリーヌ、それよりクロックの新作読んだ?」
「ええ、もちろんです」
「山に行きたくなったでしょ」
「私もサバイバルごっこをしてみたい気分です。クロックの小説は、自然の美しさと怖さ、これをテーマにしているのが、伝わって来るようでした」
「一緒に山に行きましょうよ」
「ええ、でも……エリーゼ様は……」
「お父様に許可を取らなければいけないと言いたいんでしょ」
「そうです」
セリーヌは、神妙な面持ちでそう言った。
「今晩、食事の時に言ってみるわ」