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三時間後、午後一時、アーヌスト王国に馬車が着いた。久しぶりに見る、アーヌスト王国は、とても賑やかだった。
「三千に負けてくれよ」
仲介さんと商人が交渉しているようだ。
「わかった。三千二百これ以上は負けられない」
エリーゼは、懐かしく感じる王都を見つめて、うろうろしていた。
「ねえ、アルー、あれ、何かしら?」
エリーゼの前にあるのは、頬袋にひまわりの種を入れ過ぎたハムスターだった。
「えっと、これ、何の生き物だよ、膨らみ過ぎだろ! と言いたいが、膨らむのは、ハムスターかリス位で、この模様は、ハムスターだな」
「なんで膨らむの?」
「必死で食べ物を守っているんだよ、頬袋なら誰もとれやしないだろ」
「なるほど、この子飼わない?」
「あのな、僕、アントナイトなんだよ、こいつに踏まれるかもしれないと思うと、賛成出来ない」
「ふ~ん」
エリーゼは、つまらなさそうにアルーを見た。
「必死で食べ物を守っているのは、ハムスターだけじゃないぞ」
周りを子供に囲まれていた。
「食べ物を置いて行って、お腹が空いた」
よく見ると、子供達は六人いる。とても、みすぼらしい恰好だったので、捨て子だろうと思い。
「じゃあ、このハムスターみたいに、たくさん食べなさい」
エリーゼがそう言うと、子供達が首を傾げた。
「エリーゼ、まさか、何か企んでいない?」
「うん、企んでいる。とってもいい事」
六人の子供達を連れて、城へ向かった。
「お父様、待っているかな~」
☆ ☆ ☆
城の前に着くと、門番がルシードとエリーゼだけを中に入れると言い出した。
「アルー、子供達を頼んだ」
「はいはい、ガキのおもりなんて、やってられないけど、エリーゼの頼みじゃ仕方ないな、しっかり決めてこいよ」
「うん」
エリーゼは、手を振って中へ入って行った。
「エリーゼ~!」
大声を出して迎えてくれたのは、王様だった。ルシードは、王様の姿を見て下がった。
「お父様、今は、感動している場合ではないわ、外の子供達に、たらふく食べさせてあげたいの」
「? エリーゼ、何だ?」
「子供対抗、パン大食い大会を開こうと思うの、酒場で見て、いいと思ったの。参加費は無料、優勝者には、賞金を出しましょう」
「パン大食い大会?」
「人も集まるし、子供達もお腹いっぱい、いい案でしょう」
「でもね、エリーゼ、すぐには出来ないだろ、人を集めなくちゃ」
「そうね、ラジオで宣伝してもらいましょう」
「エリーゼ、自分で意見を言うなんて、すっかり女王らしくなってしまったな、もう、何も知らないお姫様とはいかないな」
「そうでしょ」
エリーゼは胸を張った。
「私、世界を見て、いろいろ知ったの、貧困や、奴隷商、初めて見るものだらけだった。だから、この国を変えなくては、と思ったの」
エリーゼは、真っ直ぐに王様を見つめ言った。
「だがな、エリーゼ、私も手は尽くしているのだよ。それでも、出来ない事はたくさんあるんだ」
「私は、私のやり方で変えて見せるわ」
王様は、目を見開いて。
「そんな、簡単な事ではないんだ」
怒りを少しこめてそう言った。
(お父様が怒ってらっしゃる、もしかして、私、今、大変な事を言ってしまったのかしら?)
エリーゼは、少し、考えた。私なら出来ると主張してしまったのなら、お父様は、無能と言っているのと同じだ。
「お父様、決して、お父様がやっている事が足りないと言っているのではなく、今回みたいに、大食い大会を開こうと考えられるのは、私ならではの考えだと思ったの」
「確かに、私では、大食い大会など思いつかないな」
王様は、少し顔がゆるんだ。
「エリーゼ、エリーゼのアントナイトを紹介してくれ」
「はい」
門の外にいた、アルーと子供達は、中へ通された。そして、王様の前にアルーは跪いた。
「王様、私が、アントナイトの、アルー・アントです」
アルーは、今までで一番ナイトらしいポーズをとった。
「エリーゼに、この国の事を教えたのは、お前だな」
「はい」
「優秀なアントナイトの様で、安心したぞ」
「お褒めに預かり、光栄でございます」
「エリーゼ、よさそうなナイトじゃないか、これからも仲良くするんだぞ」
「はい」
エリーゼは、城を出て、屋台のパン屋を手当たり次第当たって、買い占めていた。
「今、何個ある?」
「三五〇個」
ルシードに運ばせながら数えてもらった。
「もう少し必要ね、がんばって集めましょう」
エリーゼは、張り切って、走り回っていた。
「エリーゼ様、ご帰国なさっていたのね、パンを作ればいいのかしら?」
茶髪に白いコック帽子をかぶった。長身の女性が声を掛けて来た。
「ええっと、パン屋の人?」
「いいや、料理長のアリッサだよ」
「料理長って女だったんですね」
「エリーゼ様のために、パンをこねるよ、ついてきな」
城の調理器具は、とても立派だった。オーブンも、大きく、レンガで出来ていて、三〇人分位は、作れそうだった。
「これで、一気に焼くのさ」
アリッサは、長い髪を一つに結って、コック帽をかぶる。
「エリーゼ様、パンをこねるので、離れていてください」
「お手伝いします」
「ああ、困ったね、エリーゼ様、パンを作った経験はありますか?」
「ありません」
「素人がやると失敗するから、急いでいるみたいだし、やめた方がいいよ。調理場をうろうろするのも、邪魔だから、エリーゼ様の出来ることをやって下さい」
「出来る事?」
エリーゼは、自分が役に立たないことを思い知って、ばばさまが言った。その人によって適材適所があると言う言葉を思い出した。
(アリッサには、パンは作れても、人を集めることは、出来ない)
エリーゼは、チラシを持って人が集まる場所を探した。
(どこがいいかしら?)
子供が集まる場所? 学校、公園、でも、あの人たちは、とても裕福だものね。そうなると、孤児院ね。
駆け出して、行こうとすると、アルーが現れた。
「エリーゼ、どこに行く気だ」
「孤児院」
「まあな、孤児院には、お腹を空かせた子供がたくさんいる」
「だから、行くのよ」
「僕も行く、エリーゼ一人じゃ危ない」
「守ってくれるの?」
「もちろんです」
アルーは、ナイトっぽく言った。
二人で、滅多に行かない、裏路路地にある孤児院へ向かうと、子供達が大歓迎で迎えてくれた。
「エリーゼ様だって」
「エリーゼ様、こんな裏路地まで来てくださって」
女の人が出迎えた。
「今日、パン大食い大会があるの、ぜひ、参加して」
「でも、料金が、払えないわ」
「無料ですよ」
すると、女の人は、ポカンとした顔をした。
「みんなにお腹いっぱい食べさせてあげられるのね」
「ええ」
エリーゼは、得意になって笑った。
帰り道で、人を見る度チラシを配った。




