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死が彼らを巡り合わせるまで  作者: 直紀けい
第一章 砂上の贄柱 スナトリ
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1-1 ハロー、起きてる?

──現実世界 八月二十日・side【神代隗斗】──



 例えるならばギラギラと。実際にはジュワジュワと。

 老婆のように背を大げさに丸め、亀のごとく遅き歩みで進む影がひとつ。踏みごたえの全く無い巨大な砂山をゆっくり吟味しながら、砂漠の地を歩く人影──頭をすっぽりと覆い隠すフードから除くのは蒼髪。

 髪よりも明るく透ける蒼の左目と、夕日よりは暗く沈む紅の右目を細め…神代隗斗(かみしろかいと)は今にも倒れそうな形相だった。滝に酷似した流れる汗。じわじわと徐々に体力を奪う太陽が憎たらしい。ああ、あの太陽撃ち落とせないかな。

 言うならばギラギラと。思うならばジュワジュワと。


──やってしまった


 隗斗は軽く歯噛みした。これから人を殺めに行きます、と告げられれば信じてしまいそうなほど苦々しい表情である。顔を真っ赤にさせて、熱い呼気を吐き出す。

 砂漠を渡るに至って、必要不可欠なのは水だ。生命を維持するためには絶対に持っていなければならない。そんなの、旅の経験が無い子供でも分かること。

 何度も砂漠の地を渡り歩いているからこそ、水の大切さも重々理解していた…つもりだった。

 リュックサックに入れていた水筒を取り出し、逆さにひっくり返してみるものの雀の涙ぽっちも残っていない。頑なに、一滴たりとも零さぬ水筒を恨めしく思いながらも事の重大さに肝が冷えていく。実際は現在の気温は五十度前後と、気が遠くなる数値を叩き出しているのだが。


 (けれど、仕方ないだろう)


 隗斗の脳裏に浮かぶのは、飲み水をゼロにした原因の記憶。

 愚かにも、行き倒れていた老夫婦に全ての水を明け渡したのだ。非常用の水も使い果たしてしまった。お人好し、大いに結構。考え無しの馬鹿と呼ばれても文句は言えない。愚行極まりないのだが、それでも隗斗は満足のいく結果だった。

 ありがとう、としわくちゃの微笑みを向けられれば…後悔はあっても老夫婦を憎む気持ちなど欠片も湧かなかった。あの二人は無事に砂漠を越えられたのだろうか。そう詮無き思考をしてしまうのはひとえに現実逃避である。目の前の過酷な状況から裸足で逃げ出したかったのだ。


 そもそも、魔法や魔術を用いて水を湧き起こすのは不可能ではない。事実、こうした過酷な環境を乗り越えるために魔法・魔術を会得している旅人は多い。

 基本的な魔法や魔術を扱えれば旅を続けるのは容易いと言える。隗斗自身、基礎の魔法や魔術の類はとうの昔に取得している。しかし隗斗は昔から水の魔法・魔術だけは扱えずにいた。

 故に、水を入手するためには水脈を見付けて掘り起こすという古臭い手しか無い。面倒だが、隗斗自身の魂の起源がそれを許さないのだ。


 くら、と視界が回り、脳みそも回る。あ、倒れると考える暇も無く。隗斗は砂粒の熱い抱擁を一身に受ける破目になった。

 気分は網の上で焼かれる肉である。じゅうじゅうと皮膚を焼く音が幻聴であって欲しいとこれほど願ったことは無い。だがしかし現実は隗斗を容赦無く襲い掛かる。確実に火傷を負っているであろう自分の身体に、隗斗は口端をこれでもかと歪めた。


(あ…これダメだ……死にま~~す!僕死にます~~~~~~!!!)


 脳内だけは元気である。

 自身が流した多量の汗は、砂漠にとっては焼け石に水だったらしい。

 汗が砂上に落ちる瞬間、ジュッと蒸発した光景を目の当たりにした隗斗は内心ドン引いた。



 暗転。

 次いで、明転。



 倒れてからどれほど時間が経っただろう。

 このまま干乾びて、砂漠をミステリアスに飾る白骨体になろうかなと馬鹿な考えを始めたら、ふっと眩い日差しを遮る影。


「ハロー、起きてる?」


 若い少女の声だ。

 目を動かすのも億劫で隗斗は無言を返す。無視では無い、物理的に返事が出来ないのだ。喉が張り付いて唾を飲み込むだけでは潤わない。

 この砂漠の地に住む者だろうか。太陽を背に佇む少女は逆光のため顔立ちが分からない。

 とりあえず、スカートをはいているなら倒れている人の傍で立つのは止めておいたほうがいいと思った。自衛して~~。


 隗斗の心配など知らぬ少女は、自身の名を口にしていたように思うが、最早意識を繋いでるのも精一杯で…


 結局のところ、隗斗は気絶した。合掌。

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