閑話 「片想い、一途、ずんだ餅」
閑話では視点が変わります。
閑話「片想い、一途、ずんだ餅」
私は美波友希。ゆうきとかともきとか言われることもあるけど、名前は『ゆき』だ。
現在高校に入学したての女子高生。頭はそこそこ、元気だけが取り柄の女の子。
いつも学校では友達と遊んで過ごし、放課後は部活に勤しむ友達を送り出してから、友達と遊んで帰ったり、バイトしたり、家でまったりしたりして過ごしている。
こんな私には、中学二年の頃から片想いをしている人がいる。相手は当時同じクラスだった柊怜君。見た目は小さくて女の子っぽい顔立ちの男の子だ。本人に言うと怒られるので言わないようにしているけど。
怜君は何事も程々にがんばる人で、成績とか運動なんかでは特に目立つ所はない。何かで目立つことがあるとすればその見た目をからかわれる時くらいだ。
そんな怜君は普段はぶっきらぼうな態度だけど、一度仲良くなるととても優しくなる。しかもそれを誤魔化すように言葉だけは刺々しくしようとしているのがまた可愛らしい。なんだっけ、こういうのをツンデレって言うんだっけ?
まあとあるきっかけがあってそんな怜君にうっかりデレられた私は恋に落ちてしまったのだ。
それから二年位経つけれど、これまで恥ずかしさを乗り越えて行ったアプローチは全く本人には届いていない。
怜君の交友関係が広くないおかげでまだ比較的仲の良い友達ポジションは保てているけど、いつライバルが出てきてもおかしくないので、どうにかしてこの気持ちを本人に伝えたい所だ。
だけど高校に入ってから怜君はこそこそと放課後すぐにいなくなってしまうので、運良く同じクラスになれたのにアプローチする機会がとても少ないのが最近の悩みである。
なので悪いことだとはわかっているのだが、そんな怜君を先日こっそり追跡してみることにした。恋する乙女の行為なら犯罪にならないと何かのドラマで言っていたし、多分大丈夫、のはず。
とにかくその結果、怜君が文芸部の部室に入っていくのを確認できた。
はっきり言って怜君と文芸部とでは全く接点が思いつかないので、その時はとてもびっくりした。そりゃたまに読書してる姿は見るし漫画なんかも多少読んでるのは知っているが、部活としてがんばるほどかと言われるとそれはないと思ってしまう。
そして隠れてそんなことを考えていたら数十分後、王子様と呼ばれる片瀬さんが同じ部室に入っていくのを見て、私の頭は許容限界を超えた。
他に部室に入った人はいない。もしや二人は同じ部室に属しているのだろうか。だけど片瀬さんが部活に入っているなんてうわさ聞いたことがない。
怜君も隠しているようだし、これは何か怪しい。
そう思った私はその日から片瀬さんについて調べ始めることにしたのだった。
片瀬凛華、身長165cm位、長い黒髪を一つに縛っている、見た目は王子様。性格は基本的にドライ。口調は女の子というよりも上流階級とかそんな感じ。
その見た目と話し方から多くの女子生徒の心を鷲掴みにしているのは知っていたが、話が通じる相手なら誰とでも話す点や、ごくたまに見せる笑みが女の子らしさを強調するため、この笑顔にやられてファンになった男子生徒も意外と少なくないらしい。
勉強はトップクラス。その頭の良さと理性的な行動から教師からの信頼も厚い。
運動神経もかなりいいらしい。特別スポーツをやったことはないらしいので技術という点では部活をやっている子を下回るが、単純な走る跳ぶといった身体能力はかなり高いようだ。
普段は基本一人で行動し読書をしている姿がよく見られるが、話しかければきちんと応じるので協調性も感じられる。ただ慣れないと話しかけるのに気後れしてしまう点は否めないが。
冗談も通じるし中高生特有のノリにもついてこれる。あまり笑顔が見られないので行動の真意の見分けはつきにくいが、少なくともムードをぶち壊すようなことはしないらしい。
欠点というか弱点はたまに天然で会話について来れないことと、女子が大好きなオシャレの話題が苦手なこと。それと本人的には隠しているようだがかわいいものと甘いものが好きらしい。
以上が三日かけて友人の友人のさらに友人にまで話しかけて得た情報だ。
なんだこのハイスペック超人は。オシャレ以外の分野ならコアな話でなければ文学も科学もマンガやアニメの話題までついていけるらしい。もはやオシャレへの興味のなさは天が残した唯一の欠点なのではないだろうか。
こんな人物が毎日自分の想い人と密室で二人きりで過ごしている。これはまずいかもしれない。いくら色恋沙汰に興味の薄い怜君でも彼女になら惚れてしまうかもしれない。
だがそんな彼女にも話には上らないが弱点はあるはずだ。
まずよく情報を整理してみると、放課後に彼女が何をしているか知っている人はほとんどいなかった。わかったのは少なくとも放課後三十分は教室で課題をこなしていること。勉強している彼女に長々と話しかけられる猛者は流石にいないらしく、この時点でその後の彼女の行動を知っている人はほぼゼロだった。
それでも得られた数少ない情報では、放課後に教室から出た彼女はまっすぐ玄関には向かわず、文化系の部室のある建物の方へ向かう姿を見たというもの。それと職員室にどこかの部室の鍵を返しに来た姿を見たということ。
そして私が知っている怜君との密会の情報を照らし合わせて考えられる結論は一つ。
片瀬さんはわざわざみんなが教室からいなくなるのを待ってから、怜君と会いに文芸部室を訪れているということだ。
この学校には文芸部という名前の部活はなかったはず。読書部だとか小説研究会だとかはあったが。それにきちんとした部には部室の鍵の合鍵が渡されるはずなので使用後にわざわざ鍵を返しに行くのはおかしい。
つまり怜君との密会は正式な部活動ではない。怜君は部活に興味がなさそうだからそのことを知っているかどうかわからないが、彼女が怜君と怪しいことをしているのは確かだ。
そんなことを家の自室でまとめていると、突然電話が鳴り出した。この着信音は!
「も、もしもし。怜君から電話してくるなんて珍しいね」
私は必死に動揺を押し隠しながら電話に出た。
『ああ、ちょっと友達が多い美波に聞きたいことがあってね』
あんなに人に頼るのが嫌いな怜君がそんなことを言うなんて。いったい何を聞きたいんだろう。もしかして四月末の合宿でぼっちになりそうだから助けてほしいとかかな?
「怜君の頼みならなんでも聞いてあげるとも。報酬はもらうけどね!」
ああ、まただ。昔からついついこうした態度をとってしまう。私の悪癖だ。どうにかしたいけどどうにもならないんだよな〜。
『報酬については応相談で頼む。それで質問なんだが、片瀬凛華について知っていることを教えて欲しいんだ』
私はその言葉を聞いて、落ち着くために飲んでいたアイスティーを吹き出した。
「ブフッ。な、ななななな。怜君が女子の情報を聞きたいだなんて、明日は雪が降るのかな? それとも桜がまた咲くのかな?」
私はなんとか混乱する頭を落ち付けようと適当なことを言ってごまかした。
『いや、さすがに動揺しすぎだろ。たしかに珍しいけど。でもそんな甘い動機じゃないから変な勘ぐりはやめてくれよな』
その話しぶりから察するにどうやら惚れたとかそういう話ではないらしい。良かった。これで一目惚れしたからとか言われたら立ち直れなかったかもしれない。
「了解了解。それじゃあ我が校の王子様の何について聞きたいのかな? 残念だけどスリーサイズは教えられないよ。まあ彼女の胸はだいぶ慎ましいとだけ言っておくよ」
私はわざと冗談を口にして頭を正常に回転させる。ただ彼女の胸が弱点と言っていいほど小さいのは真実だ。だからこそお姉様とかじゃなくて王子様と呼ばれるのかもしれない。
「あんな小さい胸に興味はないよ。聞きたいのは、性格や評判、それとどの中学出身かも知ってたら教えてほしい」
なんだろう、胸についての言及がまるで近くで見慣れてる感じの発言に聞こえたけど。それと私もそこまで大きくないんだけど大丈夫かな。怜君が巨乳好きだったらどうしよう。
まあそれは今は置いておこう。とりあえず彼女の性格と評判については先程まとめたことを伝える。
「ってな感じで、彼女は完全無欠のハイスペック超人だよ。出身中学については知らないけど、おそらく近場の中学じゃないと思うよ。近所の中学出身の友達から同中だったって聞いたことないし」
そう、それも彼女の秘密の一つだ。私達の通う高校はそれほどの進学校というわけでもない、近くの中学のそこそこの子達が集まる普通の高校だ。
華麗な言動からお嬢様学校出身の可能性も否定出来ないが、うちの学校に来る理由がわからない。
そんなことを考えていると電話の向こうの怜君の言葉で現実に引き戻された。
『なんかやけにまとめられてるし、すごい情報量だな』
マズイ。私が怜君との仲を怪しんで情報を集めてたことがバレたかも。
『さすが美波は友達が多いな。僕は人付き合いが苦手だから羨ましいよ。それにしても勝手にそんなに情報が集まるだなんて片瀬はやっぱり派手なんだな』
気付いてなかった。さすがは朴念仁の怜君だ。私は嬉しいけど悲しいよ。
それと怜君は可愛がられるのを嫌がるから話しかけられてないだけで、遠巻きから可愛がってる女子は結構多いんだよ?
「所でどうして急に片瀬さんのことを聞きたくなったのかな? もしかしてやっぱり放課後密会してて気になっちゃったのかな?」
あっ、つい本音を言っちゃった。まずいまずいまずいまずい。
『っ!? なんだ知ってたのか。バレないように気を遣ってたつもりなんだけどな』
あれ? あんまり怒ってないな。普通に驚いただけみたい。それなら。
「ふふふふふ、この私に隠し事ができるなんて思わないことだね!」
ついつい勢いでごまかしてしまった。
『ははは、こりゃ居眠りでもしたらその授業中にばれそうだな』
それは絶対に気付くと思う。同じクラスだしいつも怜君のことは気にかけてるからね。
『まあ詳しいことは言えないけど、とにかく今放課後は片瀬の道楽に付き合わされててさ。僕としては早く終わりにしてほしいんだけど、弱みを握られててこっちからはやめられないんだ。ということで何かあいつの弱点はないかなと思って聞いたわけだ。
まああんまり参考になる情報はなかったけど、色々教えてくれてありがとな』
ほほう、そういう方法で怜君を独占しているのか。その方法私も使うかな、じゃなかった。なんだか怜君困ってるっぽいし、何かアドバイスをしてあげられないかな。そうだ。
「だったらさ、報酬も兼ねていいアイデアがあるんだけど……」
こうして私は怜君と対片瀬さん用の打ち合わせを続けるのだった。
うう、あの怜君と電話で長話できるなんて、今日はいい日だな。
電話を終えていい気分を味わっていると小腹が空いてきた。もう夜中の九時を過ぎているので乙女としておやつは控えたいところだけど、今日はいいことがあったので自分を甘やかしたい気分だ。
二階の自室から一階のリビングへ行くと、そこでテレビを見ていたお母さんに訊ねる。
「お母さーん。なんかおやつないー?」
「ああ、ずんだ餅ならあるわよー」
「ずんだぁ?」
私は食べ慣れないずんだ餅を食べて空腹を満たした。意外に食べてみるとおいしいんだな、ずんだ。
適当にお題を決めたのですが、一途を表現するのは意外と難しいと知りました。
それとずんだは途中で登場させるのは無理でした。




