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第二十二話 初陣

「それでは本日十四時をもって、旭川製薬及び伽耶化学二社の仲介立ち経営取引を始めさせていただきます」

 新品の様な革張りの椅子にうっすらこびりついた薬品の匂いが漂う応接間に栄介の声が響いた。魔法の発現から二日。朝倉京子は取引仲介人として会議の場に立っていた。

「本日仲介及び進行を務めさせていただきます朝倉です。本題に移りまして、伽耶化学の持つゼラチン加工技術の医薬カプセルへの使用、及び新型カプセル開発の二件でよろしいですね」

 両社の代表達の顔が縦に振られるのを見て、朝倉はなお淡々と会議を進行させて行った。

 朝倉の早過ぎる実務投入を提案したのは意外にも栄介だった。彼女の能力に心酔し、連れ込んで推薦までした瑛太の判断よりも先に起用を決断した栄介の腹の中はとても単純であったが、その思惑は的を射得るところでは無かった。

 朝倉京子と言う人間は持つ力の全てをもって事にあたるのを避ける傾向があり、魔法の力を推し量るべもなく、歳にしては流暢過ぎる進行と綿密に練られた彼女の案の質の高さ、その場に出た案や意見を取り入れる器用さ。目的とは違った結果になるが、栄介はこの魔法商女が如何なる人材かを知る事は達成出来た。

「提出されていた旭川製薬の企画案に本日ご覧頂いた当方の企画、及びこの場で纏まった品質管理マニュアルを加えてお持ち帰り頂き、社内審議や他案の提出の後締結という形でよろしいでしょうか」

 あれよあれよと言う間に会議は進行し、栄介の出る間もなく纏められようとしていた。

 その時手を挙げたのは伽耶化学代表だった。

「やはり新型カプセルの開発案に納得出来ません……。新たに開発した技術の何が不満なんですか! 小型化も進められて、価格も抑えられて。旭川さんにもメリットは大きいはずです」

 伽耶化学は従来の物よりも小型で、服用時に食道で引っかかりにくい素材の使用を提案していた。

 しかし朝倉はその案を「まだ安全面及び強度面で信頼し切れるものではない」と棄却していた。

「先程も説明した通り、まだ安全面に絶対性が無い為今回は使用を見送る方針で行きたいと思います」

「そんなにうちが信用出来ないのか! 安全が信頼出来ないって言ったってそもそも身体に害が出るような素材を使った物じゃないんだ。強度だって何万回も実験して結果を出してる!」

 食いさがる男の強い意思のこもった言葉に、朝倉は溜息を吐くと眉間にしわを寄せて突っぱねるように話す。

「分かんないなら別に理解しなくていいよ。けどそんな曇った色眼鏡かけててまともに物が見えてると思うのかい」

 それだけ吐き棄てると朝倉は応接間を後にした。落胆する伽耶化学代表に謝り、会釈をすると栄介もまた彼女の後に続いて部屋を出た。

 それから一ヶ月後。望美の事務処理を手伝わされていた朝倉は、この日の事をまた思い出す事となるのだった。

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