第十七話 未来の——
朝倉京子は別段乗り気なわけでは無かった。しかし退学寸前の身でありながら、高待遇で就職させて貰えるという話を蹴るほど彼女の思考は若く無かった。と、言ってもクレバーや打算的といった言葉は彼女にあまり相応しい物ではなく、優秀過ぎた彼女にとって張り合いのない高校での授業よりも、多少興味を惹かれたと言う感情的な判断が彼女の背を押したのだ。
そして彼女の入社はその日のうちに決定され、すぐに魔法の習得を開始する。
「まず魔法を発現させる前にやらなければならない事がある。取引仲介人として、金融、物流、経済学、経営学など。英語も必要になるし覚えなければならない事が山ほどある。それから……」
栄介は言いかけた言葉を口に含んでそこで止めてしまった。
「それから、なんだよ。フリフリの衣装でもこさえて来い、なんて言うなよ」
ふた回り以上歳の離れた栄介に対しても物怖じしない、むしろ失礼な態度をとるのは若さ故か、朝倉京子と言う人物がそう言った類の人間なのかは分からないが、栄介も瑛太も彼女の態度には注意するどころかたじろいでいた。
「魔法と言うものが信用されるか、と言われればそんな絵空事を、と返されるのが普通だろう。むしろ何故君が何の疑いもなくこの話に乗っているのか理解出来ない。私はその点についても説明する気でいたんだけれど……」
瑛太のそんな言葉も右から左といった様子で、朝倉は栄介を急かす。栄介も困惑しながらまた説明を再開した。
「普通魔法なんてものを誰も信用しない。もし目の前でそんな物を使われたなら理解よりも先にパニックになるだろう。そうならない為にも——」
「——刷り込ませるのか。魔法は存在する、それは普遍的な物、そこに違和感など無い、って事かい」
栄介の言葉を遮ったのもやはり朝倉の尊大な態度だった。しかしその的を射た言葉に兄弟は目を丸くしてただ頷くだけだった。
「その為の魔法も存在するが、すこし負担が大きすぎる。これを改善するところから三人でやって行かなくては」
「そーかい。で、その為の魔法とやらはなんなんだい。あんたは使えない、とかなら説明だけしてくれれば良いよ」
この時栄介六十二歳、瑛太六十五歳だったが、まだ未成年の朝倉に話の主導権を握られたような格好になっていた。
口角を上げて不敵に笑う少女を前に、戸惑いながら説明を始めるしか出来なかった。