第八話 力と責任
真希「間宮さん……あの……」
全ては丸く収まった。二社の間にわだかまりを残すことも無く、両社の将来に向けての道を開くことが出来た。
しかし、真希の表情は暗いままだった。
間宮「魔法商女の力は誰にでも宿るわけじゃ無い。絶大で、不公平な力。だからこそ、私達魔法商女はその力を、届けられる限りの会社に届けなければいけない」
穏やかな表情とは裏腹に、辛辣で冷徹な言葉を投げかけられる。
間宮「覚えておいて。魔法は笑顔で取引を終えてもらう為の物。それを出し惜しむような事はしてはいけないの。貴女自身の魔法がまだ見つからなくても、簡単な魔法でも、それを使わない事は取引仲介人としての責務を全うしない事になるの」
真希「………………はい……」
全ては丸く収まった、そう分かっている。それでも真希の心が晴れることは無かった。
盛沢鋳造を後にした真希と間宮は、お互いに沈黙の中、ただオフィスに戻る為に、歩き続けていた。
「よう、間宮じゃないか」
ふと、後ろから声をかけられる。
そこには紺のスーツを着た女性が手を振って此方に歩み寄ってくる姿があった。
間宮「朝倉さん。久しぶりね」
感動の再会、と言った雰囲気では無く、ピリピリと張り詰めた空気が漂う。
朝倉「久しぶりだな。まだあんな所でやってんのかい?」
間宮「ええ。どうやら貴女は本社でも元気にやっているようね」
真希「あの、この方は……」
間宮「……昔の同僚よ」
昔の、と少し強調して発せられた言葉から二人のただならぬ因縁が感じ取られた。
朝倉「へぇ、新人か……なるほどねえ……」
左耳のピアスに手を当てながら、真希をジロジロと見つめ、小馬鹿にしたように小さくため息をつく。
間宮「私達はこれで失礼します。それでは、お元気で」
行きましょう、と真希の手を引きツカツカと歩き出す。
その時、朝倉は真希の肩に手を置き、小さく呟いた。
朝倉「九条には気を付けろ……」
朝倉の手を引き剥がすように真希を引っ張り、間宮は急ぎ足でオフィスへ向かった。
朝倉「今日、間宮にあったよ……」
「…………」
病院だろうか。窓も、扉もない真っ白な部屋にベッドが一つ置かれ、そこに横たわる人の様な物に朝倉はベッドの手すりに腰掛け、ただ話しかけ続ける。
朝倉「話したこと、あったろ?昔の同僚でさ。気の強い所は全然変わって無かったよ……」
「…………」
それは包帯で顔も体も埋め尽くされ、ピクリとも動きはしなかった。
しかし、それでも朝倉は話しかけるのをやめない。
朝倉「新人研修の帰りだったのかな。随分陰気臭い雰囲気だったけど、そいつとは仲良くやってるみたいだったよ」
「…………」
朝倉「……わかってる」
ふう、と一つ息を吐き立ち上がる。
朝倉「じゃあ、また来るよ」
そう言うと右耳のピアスに触れ、その瞬間壁に大きな穴が空き、真っ暗な空間が覗き込む。
そして朝倉はそこへ躊躇無く踏み込んで行った。
「…………」
朝倉の姿が見えなくなると、穴は閉じ、真っ白な部屋は窓も扉も無い元の状態へと戻って行った。